幕間1
忙しくメモをしていた紀藤が、ようやく顔を上げた。書き込むことに夢中になっているあたり、やはりまだまだ経験不足なようだ。
「なるほど、当時既にベテラン刑事だった笠原さんから見ても、異常な状態だったわけですね。」
「そうです。小説なんかでは色々と趣向をこらした死体が登場しますがね、現実であそこまでの遺体を見たのは、後にも先にもあの事件だけでした。」
熱心に頷く紀藤を眺めながら、俺はあの時のことを思い出していた。遺体を見た瞬間の驚愕、その後込み上げてきた激しい生理的な嫌悪感。決して潔癖とは言えない俺ですらそうだったのだから、当時世間で狂気の事件として大々的に報道されたのも当然だろう。当然ではあるのだが……。浅田の家への風評被害も激しく、宏美の母親など一時は精神を病んで入院していた程だ。
再びメモを取り始めた紀藤を尻目に、俺は手元に置いておいたガラスのコップからお茶を一口飲み込んだ。最近は少し話をしただけで口の中が渇いて仕方がない。俺も歳を取ったもんだと改めて実感する。今回の取材の申し入れがあった際、あれから既に二十年が経とうとしていることに衝撃を受けたが、間違いなく時間は俺を巻き込み過ぎ去っていたらしい。
「それでは、捜査について教えてください。」
紀藤の声に、現実に引き戻される。集中力の減退も、歳を取った証拠だな。
「ええ。すぐさま私たち捜査一課十一班は動き始めました。」