幕間5
紀藤のメモ書きが止まった。
「笠原さんは、井上は浅田殺しの犯人ではないと考えていたのですか?」
「確証はありませんでしたが、すでにそういう考えは生まれていました。まず、井上の死が他殺なのは間違いない。そうだとすると、浅田殺しの犯人とも考えづらい。」
「やはり、遺書の偽装が決め手ですか。」
「それも含めて、自殺というにはあまりにも不自然でしたからね。しかし、まだ客観的な証拠はなかった。煮え切らない一日でしたよ。まったく。」
あの時期は捜査全体に停滞感が出ていた。通常なら、新たな遺体は(言い方は悪いが)事件解決のための新たなヒントになる。しかし、この時は遺書の存在もあり自殺で片付けようとしているものも多かった(もちろん俺たち十一般は別だ)。そのため、事件は終わったという声も署内でちらほら聞こえ始めていた。
「どうせ浅田の体内から見つかった精液は井上のものだろう。そうであるならば浅田殺しの犯人は井上だろう。短絡的すぎるとは思いませんか?しかし、当時の府警の空気はそうでした。」
思わずため息が漏れる。
「私はその前提から疑っていました。つまり、精液は井上のものではないのではないかと。犯人の偽装は杜撰なものでしたから、そこまで考えていないのではと予想していたのです。そもそも、精液が出てきたことはまだ公表されていませんでしたし、DNA鑑定という言葉も今ほど一般的ではなかったですからね。鑑定結果が出て、すべてがひっくり返ることを期待していなかったと言えば、嘘になります。」
その結果どうなったか。それはすぐにわかる。
「次の日に行きましょう。ここまで話さなければ、先には進めませんからね。」




