アシナメ王子とアシクサ少女
これは遠い昔の、銀河が生まれて間もない頃のお話です。
銀河が生まれてすぐ、生命が誕生しました。
生命が誕生してしばらくすると、人間と呼ばれる生命体が急速な進化によって形成されました。
人間は瞬く間に地球の服従者としての第一人者となりました。
何故なら人間は支配と服従を好むからです。だから地球に支配され、服従することを苦とも思わないのです。
その支配と服従の関係性が人間社会に礼儀を生みました。多くの人間たちにとって、礼儀は行動の基礎となりました。
礼儀、礼節はその国や民族の文化によって大きく異なります。
国際主義……なんて言葉は当然なかった頃の時代の話ですから、当然民族や国が違えば大きすぎる文化的な差異によって意思疎通ができません。
そんな時代の中、この地球文明のほとんど一番最初の王家と言ってもよい一つにアシナメ家という小さな一家がありました。
この物語は、そんな王家の最初の王子、アシナメ王子のお話です。
星が数多く見える真夜中でした。
豪華な玉座には王が座っていました。この玉座は高度な文明の象徴です。
この時代に椅子を作ることは非常に難しかったのですが、王の息子であるアシナメ王子はそれをいとも簡単に作ってしまったのです。
王はそれを不思議に思いました。しかし、いかにも座り心地の良さそうな椅子の前では理由なんてどうでもよくなってしまって、王子のことを褒めもせずに座ってしまいました。
でもそれはいけないことでした。王様はそこで座ったきり動かなくなってしまったのです。あまりの座り心地の良さに、王様は動くことを放棄してしまったのです。
王に仕える人々は困惑しました。王が動いてくれなければ、どうしようもできなかったからです。
王はそのまま椅子に座ったきりで、もう一年が経とうとしていました。
「王様や、動いておくれ」と人々が嘆きますと、王様は「私はこの椅子に座っている」とだけ言うのです。
王様にはもはや何を言っても無駄になってしまいました。
王様が動かなくなってしまった結果、人々は結束を失い、発展途上にあった文明は、その発展を今にも止めてしまいそうでした。
人々の怒りの矛先は王子に向きました。
王子は人々に謝ると共に、こう言いました。
「私の作った椅子は悪魔の椅子だった。悪魔の椅子に座ったものは一生そこに座り続けてしまう。私は父にとてもひどいことをした。だからこそ私には責任がある」
王子の瞳には涙が溢れていました。自分の父親が仕事をしなくなって一番困っていたのは椅子を作った張本人であるアシナメ王子だったのです。
人々は王子に同情しました。しかしながら人々の力は無力でしたので、どうすることだってできなかったのです。
「私には王子としての責任がある。だから私が今ここで王になるしか道はない」
アシナメ王子は王になると宣言しましたが、王になるには五十の慣わしをこなす必要性がありました。
人々は王子が王になるには若すぎると思いましたが、王子は王になると言って聞かなかったのです。
ですから王子は数多くの危険な慣わしに次々と挑戦していきました。それも全部、人々のためです。
アシナメ王子は慣わしを順調に達成していきました。
そのなかでも一番危なかったのが崖登りです。
「一国の王であるもの、巨大な崖を登る。困難を破りし時こそ、真の民が視える」
それが父からの教えだったので、アシナメ王子はありとあらゆる崖に登っていきました。
崖を登っている最中、王子は小石につまずいて、顔から地面に勢いよく飛び込んでしまいました。
アシナメ王子は舌を出していたので、舌を下敷きに転んでしまいました。
おかげで王子は舌を大怪我してしまい、味覚をなくしました。
それでも王子はくじけずに頑張りました。
そして気づけば王子は五十の慣わしのうち、四十九の慣わしを達成していたのです。
五十番目の慣わしは結婚でした。
アシナメ王子は王女となるのに相応しい女性を選ぶ必要性があったので、結婚には慎重になりました。
王の召使いが、国一番の美女を連れてきました。
アシナメ王子の心は軽快なリズムで踊り始めました。
王子は美女を見て興奮している自分に恥ずかしくなりながらも、体は正直でした。
スポンジ構造のそれは、ドーナツのような空洞の中に行きたがるものです。
彼は求婚の儀式をすぐさま行うように召使いに命じました。
求婚の儀式は暗い灯りもない二人だけの密室で行われました。
アシナメ王子はひざまずきました。
美女は真剣そうなアシナメ王子の顔を見てドキドキしてしまいました。
王子はその美女の足を手に取り、おもむろに舐め始めました。
ぺろぺろろん
ぺろぺろろんろん
ぺろぺろろ
くちゅくちゅぱあ
くちゅくちゅくちゅぱ
くちゅくちゅぱあ
美女の顔は紅潮し、恥ずかしさのあまり思わず王子の顔を自分の足から引き離してしまいました。
これにより儀式は失敗に終わりました。
「女は男が満足するまで足を舐めさせなければならない」というのが王が定めた結婚の掟だったからです。
美女は儀式を失敗させた罪でたちまち死刑になってしまいました。
アシナメ王子は大変残念がりましたが、彼女を斬首した後、足首だけを切り刻んで持ち帰りました。
王子はその足首を舐めながら彼女のことを思い出そうとしました。
王子は崖から落ちた影響で舌がおかしくなっていたので、味は微妙にしかわかりませんでした。
その僅かな味から王子は彼女のことを思い出し、足首を舐めては涙を流していたのです。
しかしその足首は腐敗がひどく、すぐに使い物にならなくなりました。
結局のところ、アシナメ王子はそれを廃棄して美女の味も忘れてしまいました。
その足は、その美女がたしかに大地を刻んだ足でした。
しかしそれはしっかりと焼却され、カタチを失ってしまいます。
一人の美しい女がこの世界から姿を消したとしても、アシナメ王子は結婚の儀式を済ませて早いうちに王にならなければなりません。
召使いはアシナメ王子のお気に召すであろう美人たちを次々に送り込みました。
しかしそのどれもが儀式の途中にアシナメ王子の舌攻めに耐えられなくなり、死刑となってしまうのです。
ですから結局この国は一年以上、王としての権力を持った者がそれを有効活用できないままになってしまいました。
そのうちに国はどんどん衰退し、穀物は枯れ、食料は不足しました。
人々は飢え、飢えるがゆえに子供をつくらなくなりました。
そんな絶望的な状況の中、一人の少女が王子の前に現れました。王子は突然の訪問にびっくりしましたが、すぐさまそれが求婚しに来たのだとわかりました。
少女は召使いを通さずに直接王子に会いに来たのです。
儀式に失敗すれば彼女に命はありません。それなのに彼女は頼まれもしないでやってきたのです。アシナメ王子はその姿勢に感動し、涙を流してしまいました。しかしそれで終わったわけではありません。
しっかりと儀式を成功させなければ、そんな少女の気持ちなど何も意味を為さないのです。
アシナメ王子はとりあえず少女にキスをしてみました。彼女がそれで拒否反応を起こせば、儀式も当然成功するわけもなく、無駄に命を犠牲にすることになると思ったからです。
しかし少女にはそんな心配は不要だったようで、王子のキスをしっかりと受け止めました。
王子はそんな少女を見ていると興奮が止まりませんでした。自分が愛されているという感覚を人生で初めて持ちました。
王子はひざまずき、少女の足に口を近づけ、口をゆっくりと開き、少女の足を舐めようとしました。
しかしほんの数ミリ単位まで接触しかけたところで、王子の顔はピタリと止まりました。
王子は急激な目眩と頭痛に襲われました。そしてその原因は明確でした。
少女の足が、臭すぎたのです。
「キスはするのに儀式はしてくれないのなんて、あんまりじゃないですか?」
少女はそう王子に訪ねました。王子は困ってしまいました。
「王子様はあまりにも多くの人を犠牲にしすぎました。私はあなたを受け入れます。王子様が私を受け入れてくださるならば……」
少女の声は涙ぐんでいましたが、その涙の理由まではわかりませんでした。
アシナメ王子は決死の覚悟で少女の足を舐めました。
ぺろぺろろんぺろぺろろんろん
ぺろぺろろんろんぺろぺろぺろ
ぺろぺろろぺろろぺろろぺろろ
くちゅくちゅぱあくちゅくちゅくちゅくちゅ
くちゅくちゅくちゅぱっぱっぱっぱ
くちゅくちゅぱあくちゅくちゅくちゅ
非常に濃厚な少女の匂いが、王子の鼻孔を襲ってきます。
少女の足の中で大量の微生物が元気に活動をしていることは明確でした。
しかしながら王子はそれでも舐めることをやめません。
ぺろぺろろんぺろぺろろんろん
ぺろぺろろんろんぺろぺろぺろ
ぺろぺろろぺろろぺろろぺろろ
くちゅくちゅぱあくちゅくちゅくちゅくちゅ
くちゅくちゅくちゅぱっぱっぱっぱ
くちゅくちゅぱあくちゅくちゅくちゅ
今度は王子の舌攻めが少女の足を襲います。
鍛え上げられた熟練のテクニックは大きすぎる快感を生み出します。
しかしながらそれに少女は耐え忍びます。
ぺろぺろろんぺろぺろろんろん
ぺろぺろろんろんぺろぺろぺろ
ぺろぺろろぺろろぺろろぺろろ
くちゅくちゅぱあくちゅくちゅくちゅくちゅ
くちゅくちゅくちゅぱっぱっぱっぱ
くちゅくちゅぱあくちゅくちゅくちゅ
王子は少女の親指の付け根まで呑み込んでしまいそうなくらいに舐め続けました。
崖登りで失ったはずの王子の味覚は、少女の濃厚な味わいを堪能していました。
感覚器官の復活は、王子に多大なる幸せを感じさせました。
そして少女は自らの足を王子の喉の奥へ奥へと押し付けました。
少女の足は食道を通って胃にまで届きました。少女の足の臭いは、王子の胃酸すらも豪快に溶かしてしまいました。
少女の足が入り込んだおかげで、王子はあっという間に死んでしまいました。
ですが、王子は少女の濃厚な味を死ぬまで体の端々で感じられたのです。
王子は幸せな死に方をしました。
王子は多くの儀式の犠牲者と同じように首を切られました。少女は王子がいつもポケットに足首を切るための刃物を持っている事を知っていたのです。
それから少女は王子が秘密に作っていた二つ目の椅子に座りました。
その椅子はなんとも魅惑的で、少女はその場から動けなくなりました。次第に時間は経ち、召使いなんて居ない平民の少女は知らぬ間に干からびて死んでしまいました。
少女は椅子に座る前に、王子の生首を自分の腕に抱えていました。
少女は愛する王子とともに一生を終えることができたのです。
王子が死んでしまったことにより、王の後継ぎは居なくなってしまいました。
ですが王は未だにアシナメ王子の作った椅子に座り、召使いの運んでくる料理によって生き延びています。
王の後継ぎが居なくなった国は滅びゆくしかありません。
しかし王はその椅子からは動くことができず、滅びゆく国を見守るしかできないのです。
死んでしまった人たちの想いは、不規則な経路を辿りながら王の椅子に憑依し、王を絶対に離そうとしませんでした。
でも王は知っていたのです。それすらも、結局は愛情の一つのカタチであることに。