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LARP用のアイテム作りが趣味なんですけど何故か異世界に飛ばされたんだけど何だこれ  作者: でーぶ
第一章 LARPをしてたら異世界に来てしまった。どうしよう。
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第七話 魔道具ご紹介

「子供が出来ない、かぁ」


 風呂場でふと呟いた「この家の子になりたい」という言葉に、アズール女史が恐ろしい勢いで食いついてきた。

 デービッド氏との間には未だ子宝は恵まれていないのだが、それは覚悟の上で一緒になったらしい。

 というのもエルフと人間の夫婦の場合、同族同士の婚姻に比べると子供が出来る可能性は少々低いのだそうだ。

 アズール女史のような貴族階級の跡取り不在は深刻さの度合いが一般市民とは桁が違うのだろう。

 養子等も考えていると言う話なのだが、如何せんしがらみが多すぎて下手に彼女の親族筋から後継者として迎えると一悶着どころではない揉め事が発生するやもしれないとの事。

 どこも継承問題ってのは悩みの種ですか。

 そんで異邦から来たばかりの私になんでいきなり白羽の矢を立てるのか。

 それはやはり、どこにも紐ついてないから、なんだろうなぁと。


「単純に、あなたを気に入ったからなんだけれど。まあ一目惚れね」


 そう言って湯船で抱きつかれたのは正直めっちゃクラッと来た。

 あんなん反則ですわ。

 でもまあ、まだ継いでも居ない爵位の更に次代の話なので、どちらかと言うと純粋に子供がほしいんだろうなというのは伝わってきた。

 だって人間な私だと先に多分寿命が尽きるわけで、跡継ぎにという意味では役に立たない。

 なので女史的には子供が欲しいけど出来ない、アラこんなところにものすごい魔法を使う優秀そうでしがらみのない若いのが居るじゃない、唾つけトコ、と言ったところじゃなかろうかと愚考する次第。

 私ゃ子供扱いですか。まあ今現在の見た目は14〜5歳だから子供っちゃだけど。


「んまあ、私もそうそう死なないから、跡継ぎとか難しく考えること無いのよ?」


 なんて冗談めかして言ってたけど、相変わらず目が笑ってないのがこわい。

 いや、もうこわいと言う感覚ではないな。

 このヒトのこの目は、きっと人と比べて長い人生を歩んできた故なのだろう。

 人の世の移り変わりや出会いに死別。

 じいちゃんばあちゃんの、達観した目とダブって見える。


「考えときます。まあ実家に帰っても居場所ないんで」


 そう答えたところ、実に華やかな笑顔が見られたのでそれだけでもう眼福であった。

 実家はもう他の兄弟がついでるというか、そもそもただの農家だしな!

 そして風呂から上がって女史と別れて自室に戻り、メアリーに何か冷たい飲み物ちょーだい、とお願いしてからカバンをひっくり返して中身を引きずり出した。


「さくっと寝てもいいんだけど、昼間ひっくり返ってたからまだ眠くないんよね……」


 そんなことを言いつつ、カバンの中から取り出したアイテム群をチェックする。

 冒険者ギルドで目覚めた直後にざっと調べたが、あの時は魔道具として機能するかどうかを確認した――身に付けて発動の言葉(キーワード)を唱えてみたり――だけで、実際の効果までは検証していなかった。

 引っ張り出したアイテム類は、イベント後に対面販売するために洒落にならんぐらいの数が入っている。ほぼ在庫一掃する気だったからね。


「これは『地を這うモノの指輪』これは『綴る者のピアス』に『偸盗の耳飾り』、と……」


『地を這うモノの指輪』はMP回復と雷魔法耐性。

『綴る者のピアス』はINT(かしこさ)上昇。

『偸盗の耳飾り』はDEX(器用さ)上昇した上で、手元が明るく見える機能付き。

 他には各種魔法耐性付与とか魔法属性強化とかの指輪やらペンダントやら。

 中には龍眼の指輪とか有って、向こうの世界じゃただの人形作る時とかに使うグラスアイ流用品なんだけど、こっちだと本当に龍からえぐり取った目玉がががが。

 グリって動くんだぜ? こいつ。目玉だけのくせに。

 そんな感じでアイテム群を整理していると、メアリーがカートに飲み物を載せて帰ってきた。

 ご丁重に4回ノックをしてこちらの返事を待つあたり、こっちとあっちのマナーは共通なのかしらんなどと考えてしまった。

 コレ絶対向こうの人間大量に来てるわ。

 入室を許し、しずしずと入ってきたメアリーは、でかい机の上に所狭しと並べられている魔道具に目をやると、頬を引きつらせて一瞬固まった。


「ああ、あれ? 危険なもんじゃないから気にしないでいーよ」

「え、いえ、その、は、はい。わかりました」


 ものすごく気にしてらっしゃる。

 机の側まで恐る恐るカートを押してやって来て、微妙に震える手つきで細かく砕かれた氷がぎっしり入った銀と思しき金属のカップに、ティーポットカバーを外したポットから熱々のお茶を注いでくれた。

 速攻で冷やされたお茶は、濁ることなくその色合いを楽しませてくれそうである。

 が。


「ヒッ!」


 机に出したままにしておいた指輪の一つ、龍眼の指輪がぎょろりと彼女の方を向いたため、それを見た彼女は思わず手元を狂わせてしまったのである。

 ばちゃりとカップの外に飛んだお茶は、幸い机以外どこにもかからず被害が出ることはなかったのだが。


「もッ!も、もも申し訳ございません! この罰は如何様にでも!」


 私ゃ鬼か何かだと思われてるのか。

 さっき風呂に入るまでの態度とは大違いである。

 あれか、私がもしかしたらマジでここの子になるかもしれないって話が耳に入ったのかもしれない。


「なんか拭くもの持ってきてくれたらいいよ。あと、もう用事ないから休んでいいよ」

「はっ、はい! それでしたらこちらで、いえすぐ拭き取らせていただきますのでお待ち下さい」


 カートの下の段に納められていた布巾でちゃちゃっと溢れたお茶を拭いて、挨拶もそこそこにメアリーは退出していった。

 別に取って食ったりしないのに。

 ……と言うか、このアイテム群を見せたのはまずかったかしらん?

 まあ隠すほどのものじゃないし、いずれは見せなくちゃなシロモノだからいいとして。


「さて、と」


 魔道具となったアイテム群を再びカバンに詰めこみ、残されたのは未加工の石やら石の嵌っていない指輪にペンダントトップその他もろもろ。


「さて、こっちで作ったらどうなるのかしら?」


 思い通りのシロモノが出来るかどうかは賭けだけれど、まあ何とかなるだろうと思っていた。

 この時は。


 ☆


 祠の前で怪しい動きをしている奇妙な男を前にして、俺は身体中から脂汗がとめどなく溢れ出しているのを感じていた。

 アレはヤバイ奴だ、そう直感したのだ。

 踵を返して逃げ出そうと思っているのだが、身体が動かない。

 と言うか、剣を明かり代わりにしていたせいで、抜き身の剣を奴に向けている状態である。

 気づかれたら戦闘不可避なんじゃないだろうか。

 せめて剣を鞘に収めるべきだ、と思ったが、やはり身体が動かない。

 と、祠の前でしゃがみ込んでいた奴がふいに立ち上がり、祠の向こう側へと飛び退った。

 祠を挟んで向こう側に降り立つと、奴はこちらに振り返り、その醜悪な顔をこちらに向け、ひび割れたガラスをこすり合わせるような声を発し、こう言った。


「ゲゲ、近づいてこないとはな。わざとスキを見せていたのを察していたか。存外出来るようだな」


 知らんがな。

 俺はカチコチに固まった身体をどうにかして動かそうと深呼吸をしながら全身の筋肉を総動員させ、何とか一歩前に出ることに成功した。

 が、そこまでである。

 たった一歩動くだけで、精神的にも肉体的にも限界が訪れた。

 何だこれ、と思うと同時にランナーズハイ的なアレの限界が来たのだと察した。

 フラフラと今にも倒れそうな身体を叱咤しながら、俺はこの状況からどう逃げ出すかを考え始め――。


「だが儀式の途中だ、手早く済まさせてもらう、ゲゲッ」


 懐から何かを取り出した奴は、俺に向けてそれを放り投げた。

 爆弾か何かか!?

 そう思った俺だったが、身体は依然言うことを聞いてくれなかった。

 剣を片手に前に突き出した姿勢のまま、微動だにしなかったのだ。

 が。

 目の前に落ちたその怪しげなブツは、黒い靄を吹き出しながら奇っ怪な叫び声を上げる醜悪な生き物を生み出したのだが。

 俺の持つ剣が、何の操作もしていないにも関わらず、激しい光を放ちそれを瞬時にかき消したのである。

 ……後々、『聖光剣 イェルイーディー』と呼ばれるようになった嫁謹製のアクリル素材の剣が本領発揮した最初の場面であった。

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