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僕と幼馴染みと黒猫の異世界冒険譚  作者: s_stein
第二章 魔法学校編

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第98話 遅れた処理班の向かう先

 翌朝6時50分。

 トールは黒猫マックスと部屋を出た。

 使い魔同伴は、彼が夜中に考えた作戦だ。


 実はトール達の間で、暗号みたいなものを決めていた。

 それが何かは、後でわかる。


 城の外に出ると、すでにシャルロッテら五人がトールを待っていた。

 彼は、彼女らに暗号のことを伝えた。


 どんよりした灰色の雲が空を埋め尽くし、少し肌寒い。

 彼らは、時間があるので、徒歩で坂道を上っていった。

 小鳥のさえずりは聞こえず、たまに姿を見せるウサギもいない。

 小動物は今日はお休みのようだ。


 トール達が校庭に到着して真っ先に目に飛び込んできたのは、幌の付いた四頭立ての馬車が一台。

 マリー=ルイーゼが首をかしげる。

「あれれ? 年少組四年生全員が来るんじゃないの?」

 ヒルデガルトは、眠そうに答える。

「そう聞いた。でもあれじゃ、全員乗れない」

「だよねぇ。ふわわ……」

 シャルロッテもあくびが止まらない様子だ。


 トール達が馬車の幌に近づくと、二頭の馬が鼻を鳴らし、首を振った。

 黒ずくめの御者が「どうどう」となだめ、トール達の方を振り返る。

 ボサボサ頭。骸骨に皮膚をかぶせたような顔。ゾッとするような赤い眼。


 列の先頭を歩いていたトールは、そんな御者に睨まれてギョッとしたが、幌の中を覗いた途端、さらにギョッとした。

 黒いローブを着て、黒いフードで頭から顎までを隠した人物が一人。

 荷台の奥に、こちらを向いて座っている。


 立ち止まったトールの後ろからシャルロッテが声をかける。

「あのー、おはようございます」

 中の人物は、寝ているのか、無言だ。

 返事はないが、とりあえず、皆は馬車へ乗り込むことにした。


 正面の人物の向かって右側の席は空いていたが、そこには誰も座らない。

 隣があまりに不気味だからだ。


 荷台の両側にある向かい合わせの長椅子に、まずトールとマリー=ルイーゼが一番奥に向かい合わせになる形で座る。

 それから、安心した残りのメンバーが、適当に座った。

 両側の長椅子はこれで埋まった。

 黒猫マックスは、トールの膝の上に乗る。

 全員が乗り込んだことを確認した御者が、地面に降りる最中らしく、馬車が少し揺れた。


 とその時、遠くから鈴の音のような声がする。

「待ってくださーい!」

 アーデルハイト・ゲルンシュタインの声だ。

 彼女はハアハア言いながら、皆の前に姿を現した。

「ごめんなさい。寝坊してしまったの。一緒に乗せてくれるかしら?」


 彼女は、帝国所轄の魔物討伐隊の制服である年少者用の戦闘服を着用していた。

 上は紺色のセーラー服風、下は細くて紅い横ストライプが2本入った白いミニスカート。これに短めの黒いブーツ。

 処理班はこの格好が常だ。

 ただし、トール達は支給されていないので、制服のままだ。


 すると、彼女の真正面に位置する黒づくめの人物が、顔をわずかに上げた。

 真っ白い肌に、顎と唇だけが見える。

 真一文字に固く結ばれた唇。

 数秒後に、その人物は下を向いて、また顔全体を隠した。


 トールは「おはようございます」とアーデルハイトに挨拶をして、奥の空いている席を指さす。

「ここなら、空いていますが」

 すると、アーデルハイトは、聞こえないくらいの小声で「やっぱりね」と言いながら、空いている席に座り、右隣を流し目で見た。

 見られた人物は、背もたれに寄りかかったまま、終始動かなかった。


 それから、御者が荷台のあおりを上げて、馬車が出発した。

 地面の凸凹が、ガタガタと馬車の車輪を揺さぶる。

 その振動が長椅子を通じて、太もも、腰、上体へと伝わる。

 不快な旅の始まりだ。


 遠ざかる風景。

 左右に揺れる乗客。

 宙に向いた視線。

 誰もが無言だった。


 約1時間が過ぎた。


 トールはウトウトしていたが、黒猫マックスが右手を甘噛みするので、ぎくりとして目を覚ました。

 実はこれ、黒猫マックスが『よからぬことが起こる』と予知した際の合図だったのだ。

 トールは、特待生達を見渡し、目の瞬きで合図を送る。

 これは、城を出たとき、あらかじめ知らせておいた合図なのだ。

 特待生達の間で緊張感が走る。残念ながら、口を開けてすっかり眠りこけていたシャルロッテだけは、合図を見逃したが。


 林に囲まれた100メートル四方の草木が生えていない所に、馬車が止まった。

 御者がしわがれた声で、「ここで降りてくだせえ」と言う。

 誰もが、馬車の振動で腰が痛かった。

 皆は、伸びをして体をボキボキいわせながら、ゆっくりと降りていく。

 黒づくめで顔を隠した人物が、一番後に降りた。

 トールより頭一つ低い、小柄な人物だ。


 全員が降りると、なぜか、馬車は逃げるように去って行った。

 さらに、黒づくめの人物は、無言のままずんずんと奥へ歩いて行く。

 取り残された特待生六人は、危険が迫っていることをあらかじめ知っていたとはいえ、何が起きるのかまではわからない。

 彼らは、周囲を不安げな面持ちで見渡している。


「やっぱり、計られたわね。ほんと、わかりやすいわ」

 一人冷静なアーデルハイトが、周囲を見渡しながら、やや低い声で話し始めた。


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