第91話 私闘のその後
ここで、ローテンシュタイン帝国魔法学校の歴史上、五本の指に入る大騒ぎとなったトールとフェリクスの私闘のその後を、簡単にかいつまんでおこう。
カルルの約束通り、その日のうちにブリューゲル公爵家専属のヒーラーが三名、看護師が三名駆けつけて、教職員の城にある医務室でトールとシャルロッテら五人、アルフォンス、シュテファニーの治療が行われた。
トールは左胸と左手の怪我ですんだが、シャルロッテら五人は、全員、肋骨が折れるほどの重傷だった。一歩間違えれば、本当に殺されていたかもしれない。
トールはそう思うと、心底震え上がった。
幸い、ヒーラーがその場で骨折も治したので、一日で回復した。
これは、ヒルデガルト並である。逆に、ヒルデガルトが、専門のヒーラー並なのかもしれないが。
アルフォンスは、鼻の骨と顎の骨が砕けていたが、こちらも一日で完治した。
シュテファニーは、全身打撲、骨折多数で意識不明の重体だったが、ヒーラーの懸命な治療で、一週間寝ていれば完治するまでになった。
ヒーラーが直せなかったのは、トールが校庭に開けた大穴と、その際の振動で床に倒れ、壊れた石像だった。
被害に遭ったのは、8つの城で、全部で20体に及んだ。
修繕費用は、トールの養母であるローテンシュタイン帝国第五皇女のアーデルハイト・ローテンシュタインが肩代わりをした。
「勉強代だと思えば安いものよ」
トールは、養母の優しい言葉に涙をにじませた。
なお、校庭の大穴は、教職員が魔法で修復した。
その日から生徒達は、城の中で顔を合わせると、挨拶代わりに話題にしたことがある。
それは、『トールとフェリクスの私闘は、トールが勝ったのか、引き分けなのか』だ。
大方の見解は、勝負の途中で身内が割って入ったので、『引き分け』だった。
つまり、決着が付いていない。
裏を返せば、どちらが強いかわからない、ということだ。
しかし、『トールは、あの12ファミリーの連中に負けなかった』という評価は定着した。
その話が大きくなって、『トールが12ファミリーの誰よりも強い』と言い出す者、さらに尾ひれが付いて『トールはファミリーを従えた』とまで言い出す者まで現れた。
こうなると、グスタフ・ブリューゲルのイライラは、激しさを増すばかり。
今やあちこちで、トールは同級生はおろか、上級生からも賞賛され、大いに注目を集めた。
こうして、トールの帝国魔法学校デビューは、華々しく始まったのである。




