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僕と幼馴染みと黒猫の異世界冒険譚  作者: s_stein
第一章 異世界転生編
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第9話 海水浴ツアーの果て

 ここは、……どこなのだろう?


 満天の星々は、月明かりに照らされた金銀の粒のごとく(きら)めいている。


 時折、赤い粒があるのは、甘く熟れた果実なのだろうか。


 転じて足下を見ると、牛乳のように白くて濃厚なスモークが起伏の陰影を揺らめかせながら辺りへ満ち広がる。


 実に神秘的な光景。


 僕は自然界の神秘に包まれている。


 こんな神秘的な光景が見られるのは、どこだ?


 それは、きっと空。


 空? もしや、浮かんでいる??


 そうか。


 もしかして、僕は今、厚い雲の上に立って、広大無辺の星空を仰ぎ見ているのか。


 この高さなら、背伸びをすれば、金銀の粒を手から溢れ出るほどにつかみ取れるかもしれない。


 あの途方もない数からすれば、この幾何(いくばく)かを手に入れても、(とが)められることはないだろう。


 そんな錯覚に陥るほど、星が間近に見えるのだ。



 ところで僕は、……なんでこんなものを着ているのだろう?


 寒いと思ったら、素っ裸の上から、白くて薄いバスローブみたいなものを一枚羽織っているだけじゃないか。


 だから、足下から下腹までスースーするのだ。


 しかもスモークにどっぷり浸かって隠れている足は、何も履いていない。


 脱いだのだっけ?


 いや、自分で脱いだ記憶がない。


 ということは、誰かに脱がされたり、着せられたりしたのだろう。

 でも、それらを全く覚えていないのだ。


 そう、……覚えていないのは、あの時からだ。



 今朝方、僕が乗っていた海水浴ツアーの観光バスが転落事故に遭った。

 阿鼻叫喚の巷と化した車中にて、僕は血まみれで息も絶え絶えになり、目の前が真っ暗になった。

 それから後の記憶が欠落しているのだ。


 ああ、……そっか。


 ってことは、僕は死んだのだ。


 だから、これは……白装束なんだ。


 そして、ここは、冥土に赴く旅の途中で死者が見る光景、ということか。


 ならば、三途の川はもう少し先なのかもしれないな。



 ん? 誰かいる?


 僕は背後に気配を感じて振り返った。


 視界に飛び込んできたのは、僕と同じ白装束の格好をしている女の子三人。


 なんてことだ!


 ……なんてことだ!


 みんなも、……みんなも僕と一緒に死んだんだ!


 僕は、心臓がギュッと収縮し、続けてバクッと音を立てて拡大したように感じた。


 さらに、そのあまりに激しい鼓動に胸の中がズキズキと痛くなった。


 本当は死んでいるのだから心臓など動くはずはないのだが、激しい感情からくる痛覚らしいものがあるようだ。


 えっ? 死者にそんな感覚なんかあるわけないって?


 だとしたら、地獄の責め苦に遭っている人々は鼻歌を歌っているはずだ。熱くも痛くもないのだし。


 彼女らもまた、辺りを(いぶか)しげにうかがいながら、困惑した表情を浮かべている。


 きっと、こんなことを考えているに違いない。


『なぜ私達はここにいるのかしら?』と。



 実は、彼女達は、僕と同じ高校に通っている一年生。

 訂正。死んだ今となっては『通っていた』だな。


 全員が僕の幼馴染み。

 全員が、今朝方、僕と一緒の観光バスに搭乗したのだ。


 誘ったのは僕だ。


 高校最初の夏休みだし、たまにはみんなで日帰りの海水浴に行こうよ、そこで大いに盛り上がって楽しもうよ、と僕の呼びかけに全員が賛同してくれた。仕方ないわね、という子もいたけれど。


 考えてもみてほしい。

 夏休みを部活三昧、バイト三昧で終わらせるのはもったいないではないか。


 僕が誘った手前、万一の事故があったら彼女達のご両親に申し訳ないので、名のある旅行会社の海水浴ツアーを選択した。


 そして、どうだい単線の鈍行で揺られて行くよりは豪勢だろう、と自慢したのだが。


 ……その結果がこれだ。


 ああ、……それにしても、なぜこんなことになってしまったのだろう!


 僕らのバスの運転手が居眠り運転をしたのか、反対車線を越えてきた対向車にバスが正面衝突されたのかは知らないけれど、僕達の命をこんなに早く奪い去ってしまうなんて、めちゃくちゃだ!


 海水浴で彼女達に僕の華麗な泳ぎ、猛特訓の成果を披露するチャンスだったのに!


 まあ、彼女達の可憐な水着姿を拝めればという下心もほんの少しはあったのだが。


 訂正。下心、かなりありました。


 ビーチバレーも、スイカ割りも、砂遊びをしたり埋まったりも、お約束みたいなイベントをスケジュールまで書いて用意していたのに!


 そして、『あの子』とは、僕からちゃんと謝って、今まで長い付き合いだからなんとなくではなく、キチンと仲直りしようと思っていたのに!

 ここは男らしく、ね。


 そうだ。

 ここでみんなを紹介をしておこう。

 えーと、まずは僕から。


 名前は一乗(いちじょう)ハヤテ。

 性格は、自分で言うのも恥ずかしいが、明るい方かな。


 楽天家とかお調子者とかよく言われる。

 そう言われても気にしないところが、この性格の所以らしい。


 サラサラヘアとアホ毛が気に入らない。小遣い貯めてパーマにでも行きたいのだが。

 趣味はゲーム。ついつい課金しちゃうからお金が貯まらなくて、パーマもかけられなくて困っている。


 スポーツはフットサルを少々。

 部活は-


「そちらでお待ちかねの皆様、どうぞこちらへお越しください!」


 なんだ、なんだ!?

 人の自己紹介をいいところで遮るこの受付嬢みたいな声は??


 僕も彼女達も、一斉に声のする方向へプレーリードッグさながらに首を伸ばして凝視する。


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