第84話 固める守り
シュテファニーのその動作は、先ほどと同じく、魔法で何かをぶつける動作だ。
それが間近で放たれようとしている。
(魔法攻撃が正面から来る!
防がなきゃ!
防御魔法があるから大丈夫……って、あああっ!!)
トールは今更ながら、防御魔法を使い忘れていることに気づいた。
学校から出て校庭まで一気に走ったとき、強化魔法を使ったのだが、それだけだった。
さらに、精霊との契約の指輪を右手の指にはめている。
つまり、体力や攻撃力の強化はできているが、防御はお留守になっていたのだ。
だが、時はすでに遅かった。
シュテファニーが描いた円の中心で空気がモヤモヤしたかと思うと、たちまち1メートルくらいの渦巻きができた。
その渦巻きの中で、風がピューピュー吹き荒れる音がする。
「さよなら」
彼女は別れの言葉を彼に告げると、また左手の中指と親指でデコピンみたいに弾く。
すると、渦巻きが強大な突風となって、正面に立ち塞がるトールを襲った。
風に当たる表面積を小さくすれば、飛ばされない。
それで前屈みになって耐えていた彼だが、下からも吹き上げる突風の力にあおられて上体を起こされた。
こうなると、体の前面がくまなく風に当たることになり、ついに宙を舞う。
そして、飛ばされた洗濯物のローブのように風に乗って、金網のフェンスに背中から激突した。
風は目的を終えると、嘘のように収まった。
落下して尻餅をついたトールは、一度は立ち上がるも、うつ伏せに倒れた。
そして、猛烈な痛みに耐えながら、猛省した。
攻撃は最大の防御。
そう信じ切って、すべての力を攻撃に回していた。
確かに正しいのかもしれない。
しかし、彼女の攻撃は、今のトールとは力が互角と言えるほど強い。
トール自身の修練がまだ足りないから、異世界最強の力を出し切れていないのだ。
悪いことに、あの彼女のまじないのような指の動きに見とれてしまうから、隙ができる。
これでは、攻撃すらままならない。
自分の力をもっと引き出す必要がある。
それには、心の迷いを断ち切る必要がある。
トールは、うつ伏せのまま防御魔法を発動し、全身に紫色の光を纏った。
強化魔法の白い光と相まって、美しく発色した。
そして、指輪を左手中指にはめ直した。
防御の強化である。
でも、まだ足りないものがある。
彼は上半身を起こし、遠くに落ちていた長剣に向かって「剣よ! 来い!」と呼び寄せる。
転がっていた長剣は、主の命令を聞くや否や、ボウッと炎を纏い直した。
そして、宙を飛んで馳せ参じ、柄が彼の右手に収まる。
これで役者が揃った。
トールは立ち上がった。




