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僕と幼馴染みと黒猫の異世界冒険譚  作者: s_stein
第二章 魔法学校編

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第80話 アバターとの戦い

 とその時、ヒルデガルトが日本語で不思議なことを口走った。

「アノオトコ フタリイル」


 マリー=ルイーゼは目が飛び出るほど驚愕し、次は眉をひそめて聞き返す。

「ナニ バカナコトヲ イッテルノ?」。

 ヒルデガルトは、ずり落ちる軍用ゴーグルを右手で直しながら、左手で指さす。

「アソコニイルノハ ニセモノ。タブン、アバター。ホンモノハ ムコウデ カクレテイル」

「ドコ?」

「キンパツシチサンオトコノ ウシロ」

 しかし、マリー=ルイーゼが背伸びをしても、フェリクスの後ろに人が隠れているようには見えない。


「ウソ」

「ウソジャナイ」

 マリー=ルイーゼはヒルデガルトの主張に納得できなかったが、今言い争っている暇はない。

 ここはヒルデガルトを信用すべき。

 それで、マリー=ルイーゼは、トールに向かって叫んだ。

「ソノオトコ、ヒトノスガタヲシタ ニセモノ!」

 彼女は、『アバター』の意味がわからなかったので、『人の姿をした偽者』と伝えたのである。


 トールは、マリー=ルイーゼの言葉に背中を叩かれてドキッとしたが、同時に耳を疑った。

 自分の目の前にいる少年が、今まで戦い続けてきた相手が、人の姿をした偽者?

 ウソだろ……。


 彼は、素早く記憶を遡る。

 目の前にいる少年は、痩せ細っている体。

 深緑色の長髪を真ん中分けしている金眼の優男。

 なのに、戦いぶりを見ると、自分より力がめっぽう強い。

 強化魔法を使っている気配がない。

 確かにこれは、おかしい。


(だったら、こいつは人の姿をした魔物だと思って、容赦なく倒していいよね!)


 トールは、左胸の激痛に堪えながら、剣を上段の構えにして、人じゃない何かへ突進した。

 アルフォンスの姿を借りた何かはひどく驚き、剣を真横にして両手で持ち、上からの振り下ろしを防ぐ構えを取る。

 接近したトールは、剣を剣で防がれようとも突進した。

 もう彼の心から躊躇は消えていた。


(鍛え抜かれた鋼鉄の剣であろうが、へし折ってやる!

 立ち向かう者は、すべて、この剣で斬り捨てる!

 食らえええええっ!!)


 彼の神経は、刀身の刃に集中。

 そして、持てる力の全てを長剣の鋭い刃に集めて、一気に振り下ろした。

 剣が、剣を斬る!


 キイイイイイン!


 絶叫に似た金属音。

 全身全霊を傾けた剣圧が、一点に集中する。

 よく鍛えた硬い刃金でも、これには耐えきれない。

 刀身はたわむことなく、ど真ん中から折れる。

 剣が剣を一刀両断。


 振り下ろされたトールの長剣は、勢いが止まらない。

 二つに折れた剣が落下するよりも早く、偽者の頭髪の真ん中分けに沿ってざっくりと食い込む。

 さらに、額を割り、眉間を裂き、鼻に食い込み、唇の上まで達してようやく止まった。


 校庭に巻き起こる恐怖の叫び声。

 眼前で起きた惨劇。

 私闘は殺し合いであることは覚悟の上だが、本当に今、目の前で新入生が新入生によって頭を割られたのだ。

 目撃者の数名は、ショックのあまり、その場で気を失って倒れこむ。


(本当に、……本当に僕は人を殺していないよな!? こいつ、人の姿をした魔物だよな!?)


 トールは、全身から血が抜かれた気分になる。

 右手で持つ剣は、相手の顔の真ん中に食い込んだまま。

 割れた頭の上半分が、だらんと両側に広がる。

 その裂け目の向こうに、青い山と広がる森の景色が垣間見える。

 彼の震えは止まらない。

 血の気がなくなり感覚が麻痺して、周囲の悲鳴が鼓膜へ届かない。


 ところが、トールの目の前ではもっと恐ろしい出来事が始まった。


 割れた顔がヨモギのような緑色になる。

 毛髪がハラハラと抜けていく。

 皮膚がボロボロと剥がれ、うろこが出てくる。

 目の周りが円錐のように隆起し、目を押し上げる。

 口が耳元まで裂ける。


 カメレオンの化け物だ!


 そいつは、膝がガクンと折れて、頭が刀から離れ、スローモーションのように地面へうつ伏せた。

 また巻き起こる悲鳴。


 ところが、倒れた化け物は、全身からシューシューと黒い煙が出て、みるみるうちにしぼんでいく。

 煙は空気に溶け込み、制服が抜け殻のように放置された。


 トールは、次々と起こる奇怪な現象に、長剣を持ったまま呆然と立ち尽くしていた。

 それは、目撃者達も同じであった。

 誰もが、ペシャンコになった新入生の制服を無言で凝視する。

 静寂が辺りを支配した。


 そんな中、たった一人、声を出したのはヒルデガルト。

「モウヒトリ ヤッテクル」

 時間が止まって凍り付いたような空気に投じられた彼女の日本語は、マリー=ルイーゼをビクッと跳び上がらせた。


「ドコ!?」

 小声で問うマリー=ルイーゼは、ヒルデガルトが指さす斜め右方向を見る。

 フェリクス達のいる方向だ。

 そこには動く者の姿など全く見えない。

「イナイジャナイノ」

「メガネニ ウツッテイル」

 ヒルデガルトだけが、軍用ゴーグルを通して、何者かが動く姿を見ているらしい。


 『目の錯覚でしょう?』と言いかけたマリー=ルイーゼだが、このまま会話を続けると、せっかく発見した敵にチャンスを与えてしまう危険がある。

 そう判断した彼女は、ヒルデガルトを全面信頼し、トールに緊急事態を告げた。

「トウメイニンゲンガ ミギカラ チカヅイテイル!」


 トールは、そのマリー=ルイーゼの言葉を背中に受けて我に返った。

 そして、急いで右を見る。

 透明人間なら、モヤモヤとした空気の塊でも見えるのだろうか?

 近くにそんな塊はない。

 周囲を見渡す。

 視界に飛び込むのは見物人達の姿のみ。

 彼には音も、気配も、匂いも感じない。


「ドコカラクル!? マリー! ヒル!」

 トールは大いに焦り、狼狽えた。


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