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僕と幼馴染みと黒猫の異世界冒険譚  作者: s_stein
第一章 異世界転生編
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第8話 転生後の格差

「討伐完了。宿舎へ帰ろうか?」


 トールは、両方のポケットに両手を突っ込んで、墓穴と化した大穴に背を向け、皆に作戦終了を宣言する。

 本当は手がまだ痺れるので、外気に触れたくなかったのだが、誰もはそれが格好をつけているとしか思えなかった。


 シャルロッテは預かっていた剣と鞘を彼に渡して、まだ咳き込みながら、ぶつぶつ言っている。

 他の面々は咳き込んでいないので、明らかに当てつけであろう。


 すると、遠くから、メイド服姿の侍女四人と執事姿の老人が駆け寄ってきた。


「「シャルロッテお嬢さまー!」」


 侍女達は手を振って口々にヒロインの名前を呼ぶ。

 まあ、トールの楽勝をお膳立てした功績もあるような気がするので、ここでは一応ヒロインと言っておこう。


 シャルロッテは腰に手を当てて、胸を張る。


「どう? 私の活躍ぶり?」


 背の低い老執事は、彼女を見上げ、手をもみながら褒め称える。


「それはもう、お見事の一言に尽きるご活躍でございます。それはそれは素晴らしいものでございました。ささ、お風呂とお着替えの準備ができてございます。早めのご帰還を」


 シャルロッテは、彼らに囲まれ、ちやほやされながら撤収した。


 残された三人と黒猫は、呆然と彼女達の背中を見送る。

 本当に彼女の付き人達は現場を見て言っていたのか、との疑念が胸中を去来するのだった。


「あいつ、撤収となるといつも別行動だな。ちやほやが過ぎると思わんか?」

 ニャン太郎が舐めた手で顔をこすりながら、フンと鼻を鳴らす。


貧乏貴族(うち)と、格が違う」

 ヒルデガルトが、いつものようにぽつりと漏らす。


「転生してどこへ養子に行くかで、こうも違うのね」

 マリー=ルイーゼが、気落ちするヒルデガルトを見やってため息をつく。


 トールは立場上、賛意があってもそれを表明しなかった。

 なぜなら、彼は帝国一の強大な潜在能力ゆえ、異例にも王族の養子になっていたからだ。

 これでは、些細な発言が何かと波紋を呼ぶので、彼も慎重にならざるを得ない。


 それまで厚い雲は、ため込んだ水を落とすまいと我慢していたが、最終戦を見届けた頃に堪えきれなくなったのか、徐々に吐き出し始め、直ぐさま豪雨になった。


 トール達三人と一匹は、遠くに待たせてあったT型フォードに似た4人乗り幌付き乗用車2台に滑り込むように分乗した。


「討伐完了、おめでとうございます」

 トールとニャン太郎が乗った車には若い女性の運転手がエンジンを吹かしていたが、彼の姿をバックミラーで見ながらねぎらいの声をかけた。


 彼女の名前は、アーデルハイト・ゲルンシュタイン。18歳。

 長身で銀髪のロングヘア。彫りが深くて、宝石のエメラルドのような色の瞳を持ち、鼻が高く、ピンクの唇が魅惑的。均整のとれた絶世の美女である。


 トール達と違うのは、耳が上に尖っていること、猫のような尻尾が生えていることだ。

 これは、ローテンシュタイン帝国で最も人口の割合が多い種族である。


 彼女もシャルロッテらと同じような戦闘服を着用している。違うのは、上が黒色、下のミニスカートの赤いラインが、萌えるような草緑色であることだ。

 これは、16~18歳の年中組の制服である。


 彼女の任務は単なる送迎用の運転手ではない。

 応援として戦闘に参加することもよくある。

 今回は、トール達の実力のほどを知っているので、最初から待機組で戦闘を見物していたのだが。


 ローテンシュタイン帝国の魔物討伐隊は、年功序列ではなく実力主義なので、このように年中組が裏方として年少組をサポートすることがある。

 ただし、年中者のチームに年少者が混ざることはない。

 チームは、厳格に、年齢で分けているのだ。


「いつもながら、見事な一撃でした。この車まで揺れましたよ」

ありがとう(ダンケ)

「現場の後処理は、いつものように処理班が行います。さきほど連絡しておきましたから」

そう(アハゾゥ)どうもありがとう(ベシュテンダンク)

どういたしまして(ビッテシェン)


 二人の会話はここで途切れたが、アーデルハイトはモブキャラではなく、後々トール達の冒険に再登場するので、覚えておいてほしい。


 トールにとってはいつもの会話なのだが、今日のアーデルハイトの『処理班』という響きが格別に感じられた。

 彼はその言葉に触発されて、頭の中にある記憶の箱を開け、『処理班』に関する記憶を検索した。


(処理班か。

 僕も魔物討伐の最初はそうだった。

 今想えば、一番苦労したような気がする)


 トールは濡れた服をハンカチで拭きながら、さらに、転生した3年前のことを思い出した。


(僕らはこの異世界へ転生して、幸運にも、それぞれが王族や貴族の養子になった。

 あの頃はくちばしの黄色いヒヨコだった。

 帝国一の潜在能力と畏れられるも、宿した魔力は制御できず暴走する。

 きつい処理班の作業。

 辛い訓練。

 増える強敵。

 数々の謀略。

 でも、度重なる幸運と、みんなのおかげで、ここまで来られた。

 帝国の魔物討伐隊見習いで訓練をかねて活動しているといっても、

 まだまだ勇者への道は捨てていないけどね)


 トールは、スプリングが効いていない車が道の凸凹をもろに尻へ伝える中、嬉しそうに思い出し笑いする顔を揺れるに任せていた。

 足の上では、濡れたズボンの厚めの生地を体温で暖めるニャン太郎が、早くも丸くなって眠りにつく。


 まだ右手に残る痺れ。

 巨大なラスボスを一撃で仕留めた充実感。

 心地よいひととき。


 しかし、やり過ぎたとの叱責。

 昔から制御が利かない自分の魔力。

 それが故の周囲の冷たい目。


 急に、彼の頭の中で、数々の懐かしい思い出、苦い思い出が走馬灯のように烈しく廻りだした。

 車中の窓辺にて右手に顎を載せた彼の遠い目は、何を(おも)う。



 それではここで、彼らの異世界冒険譚を始めることにしよう。


 おっと、その前に、トール達がこの異世界へ転生した時の話から紹介させていただきたい。

 なぜなら、彼らの冒険は、すでにそこから始まっていたのだから。


 物語は、トール自身の3年前の回顧から始まる。

 なお、転生時に女神?が間違えて12歳からスタートさせてしまったため、回顧は高校一年生から始まっているのでご注意願いたい。


   ◆◆◆

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