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僕と幼馴染みと黒猫の異世界冒険譚  作者: s_stein
第二章 魔法学校編

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第79話 トールの燃える長剣

 それは後方転回の体勢、いわゆるバク転の構えだった。

 身体能力が強化されているトールは、軽々とバク転を繰り返して、アルフォンスから遠ざかっていく。


 『その手があったか!』とアルフォンスは驚き、焦り、逃げた獲物に向かってダッシュした。

 しかし、遠ざかったトールが四回目で着地を華麗に決めると、今度は両腕を下ろし、両膝を大きく曲げて垂直方向に飛ぶ。

 アルフォンスは再び驚き、視界から消えた獲物を求めて宙を見上げた。

 彼の視線は、軽々と、まるでトランポリンで跳んだかのようなトールを追う。

 5メートルは軽く超えたはずだが、まだ落下しない。


 とその時、

(シュヴェルト)!」

 トールが魔法名を叫んだ。

 跳躍しながらの魔法の発動。

 バク転で遠くへ離れた狙いは、発動までの時間稼ぎであったのだ。


 彼が真横に伸ばした右手の先で、金色に輝く魔方陣が現れた。

 かれはぐんぐんと跳んで、高さは10メートルを超える。

 跳躍の頂点に達しようとする頃、そこから1メートル半の長剣がついに姿を現した。


 刀身には、朱色で刻まれた護符の古代文字。

 黄金の鍔の縁には、これも朱色で描かれた何かの紋様。

 柄に金色で浮き彫りされた、火炎を吐くドラゴンの彫刻。


 今度は、剣の刀身がうっすらと炎を纏っている。


 彼の取り出す長剣は、その時の主の心を写し取り、最適な姿に変化するのだ。

 アルフォンスは、その見事な長剣に目が釘付けになり、体まで固まった。


 長剣の柄は、主の右手でガシッとつかまれる。

 眼下の敵はこちらを呆然と見上げたままだ。

 落下が始まった。

 反撃開始!

 体を地上へ引き寄せる万有引力をも味方に引き入れる。


「うおおおおおおおおおおっ!!」


 敵に迫りながら、長剣を振りかぶったトールは、気合いを入れるため猛獣のように咆哮する。

 それまで呆けていたアルフォンスは、上から降ってくる咆哮で我に返り、迎え撃った。


 彼がその時取った行動は、後方への回避ではなく、剣と剣とのぶつかり合い。

 加速度がついた振り下ろしを考えると、剣を地上で迎え撃つ方が不利なはず。

 だが、相手の大太刀と剣を二本とも折った彼は、自分の力に過剰なまでの自信があった。


 着地の手前で、渾身の力を込めて長剣を振り下ろすトール。

 それを右から左へ大きく剣を振ることで払いのけようとするアルフォンス。


 カキイイイイイン!


 悲鳴のような金属音が空中で弾ける。

 金属同士が激しくぶつかり合い、一層強い摩擦で生じる爆発のような火花が四方に飛び散る。

 一発逆転を賭けた剣戟は、地上に軍配が上がった。

 トールの長剣は大きく横へ払いのけられたのだ。

 彼は着地すると、大慌てで長剣を正面に戻し、がら空きになった半身に踏み込まれるのを防いだ。


 あの長剣が、かくも容易に払いのけられた。

 落下の加速度も手伝って、振り下ろす力は最大限に高まっていたはず。

 何が起きた?

 原因は、トールが剣を振り下ろす途中で、力を緩めてしまったからだ。


 敵は棒立ちだった。

 簡単に斬り捨てることができた。

 なのになぜ?

 優位に立ったことによる手抜きか?

 あの咆哮は、単なる脅しだったのか?


 いずれも、否である。

 原因は、『人間』を斬ることへの恐怖。

 怪我をさせたくない! できれば後ろに逃げてくれ! そして勝負を諦めてくれ!

 その、人への優しさ。

 だがそれは、優しさにすり替わった弱腰。

 敵前での戦闘放棄。

 剣を振り下ろしながらそんなことをしていては、力が抜けてしまうのは当たり前だ。

 大勝負に覚悟がない。

 この弱気が失敗につながるのである。たとえ、異世界最強の力があっても。


 不要な躊躇が、戦いを長引かせた。

 長引けば、剣戟の経験が乏しいトールが不利になる。


 それからは、互いに剣の激しい打ち合いが続いた。

 剣が舞う。

 右上から左下へ、左上から右下へ。

 両者とも、8の数字を横向きに描くような剣の動きが続く。


 どちらも、一歩も譲らない。

 根負けしては斬られてしまう。

 動きを、タイミングを、しっかり合わせないといけない。


 だが、それはアルフォンスの策略であった。


 殺陣の練習のような型どおりの動き。

 規則的に続く剣を打ち合う音。

 それが突然、聞こえなくなった。

 トールは、途中で剣を見失う。

 なぜなら、アルフォンスがいきなり、今まで打ち合っていた剣さばきと違う動きをしたからだ。


 とその時、トールは自分のブレザーの左側、校章のワッペン辺りで衣服が斬れる音がした。

 冷たい何かが左胸の皮膚に触れた。

 続いて襲う痛覚。


 一方、アルフォンスは相手の胸を斬り裂いた感触をつかんだ。

 彼は、勝ったと思い、剣の動きを止めた。

 相手は胸を押さえて倒れるはず。


 ところが、トールは後ずさりしたものの、倒れない。

 顔色はと見ると、それほど変化なし。

 アルフォンスは最初キョトンとしていたが、突然、ネジが外れた人形のように体をガクガクと動かし、笑い転げた。

「ヒャッハハハハハ! 貴様、服が体に合っていないのか!? ブカブカか!? どうりで肉まで剣先が届かないんだ! ヒーヒー! こりゃ、おもしれえ!」


 アルフォンスの言葉は、半分正しく、半分間違っていた。

 実は、トールの服がブカブカだったのは確かだが、左胸の一部に剣先が達して、肉が斬れていたのだ。


 トールの左胸に激痛が走る。

 この痛みを堪え、さらに、斬られたことをカモフラージュする必要がある。

 弱みにつけ込まれるからだ。

 彼は怒りのボルテージを上げ、表情から『苦痛』を消す。

 一方、アルフォンスは笑いのツボにはまったのか、ケタケタと笑い続けていた。


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