第75話 友情の剣
「どうしたの、これ!?」
トールは見たこともない剣が投げ込まれて、目を丸くした。
「あんたの剣の魔法を真似したら出てきたの。燃えていない方があたしのよ」
「シャル、ありがとう!」
「同じく真似したら出てきちゃった。真っ赤に燃えているけど、柄は熱くないわよ。火の精霊の力が宿っているから、思う存分使ってね♪」
「マリー、ありがとう!」
トールは右手で大太刀を、左手で燃える剣を抜き取った。
そりが深く冷たく光る大太刀。
反対に、赤く激しく燃える剣。
そこへ再び、ドラゴンが火を噴いた。
攻撃パターンに慣れた彼は、それを軽々と避け、ドラゴンに向かって二刀流の構えを見せる。
「お前、なにかい? あのドラゴンを剣で倒すって!? ハハハハハ! 馬鹿なことを!」
ゲルトルートは、彼の二刀流の構えをあざ笑った。
しかし、トールは柳に風と受け流す。
「その馬鹿なことを、これからやるのさ!」
彼はニヤリと笑って、大太刀を振りかざし、ドラゴンの方向へ飛びかかる。
彼女は、それを見て腹を抱えて笑い出した。
チャンス到来!
トールは、突然、ドラゴンから、笑い転げる女へと方向転換する。
そして、二刀流の構えを保持したまま突進した。
強化魔法を使っているので、人間とは思えない早さで、一気に距離を詰める。
彼女がハッと気づいたときは、トールは3メートル手前にいた。
ゲルトルートは両手をクロスして、瞬時に防御結界を張った。
その結界の力を与えるのは、彼女が手にする魔法の杖。
防御結界は、彼女の手前にて、すんでの所で展開された。
トールのターゲットは彼女の魔法の杖。
彼はそこをめがけて、思いっきり大太刀を振り下ろす。
ガキイイイイインッ!!
響き渡るのは、金属と硬質な何かが激しくぶつかる音。
彼女の防御結界は、透明なクリスタルなのか。
結界が、大太刀の極めて鋭い刃をしっかり受け止め、びくともしない。
そのため、刀が宙にとどまったように見える。
彼は、さらに燃える剣を振り下ろす。
これも固い音を立てるだけ。
二本の武器が宙に浮いたままだ。
トールは思った。
(斬れないなら、このまま力業で押すしかない!)
そこで、グイグイと力任せに刀と剣を押しつけた。
ドラゴンの方は大丈夫だろうか!?
彼は、術をかける主のそばに自分がいれば、ドラゴンは主を守るため火を噴かないだろうと読んでいた。
事実、ドラゴンは二人の戦いを眺めているだけ。
彼の読みは当たったのだ。
(魔法よ! 指輪よ! もっと! もっと! もっと力を与えてくれ!!)
トールは全体重を載せて、見えない防御結界を押しまくる。
防戦一方となったゲルトルートは歯を食いしばり、押されまいと足を踏ん張る。
しかし、彼の圧迫を跳ね返すことはできず、逆に後ろへ後ろへと押されていく。
見ている方も、拳を握り、歯を食いしばるほど力の入る押し合い。
押せ! 押せ!
押して、押して、押しまくれ!
特待生達は、声に出さない声援を送った。
すると、彼らの祈りがようやく届いたのか、変化が起きた。
ピキッ、ピキッ、ピキピキッ!
結界にひびが入るような音がする。
ピキピキッ、ピキピキピキッ!
後一押しで、割れる!
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
トールは猛獣のような咆哮を上げ、強化魔法で高まっている腕力を活かし、さらに力を加えた。
「くっそおおおおおおおおおお!!」
ゲルトルートが、まぶたを固く閉じ、歯が折れるくらい力を振り絞ってトールを押し戻そうとする。
バリバリバリバリ!
ついに、ガラスが割れるような大きな音が響き渡る。
防御結界がバラバラに砕け散ったのだ。
トールは力を弱めない。
そのため、突き抜けた大太刀と炎の剣が、勢いよく魔法の杖に食い込んだ。
ついに捕らえられた魔法の杖。
彼女は歯をむいて、両手で杖を支える。
一方、彼は容赦なく、刀と剣で押しまくる。
彼女の腰が徐々に沈んでいく。
たわむ杖がギシギシと音を立てる。
ついに、彼女が力尽きた。
背中からドオッと倒れたのだ。
彼は弾みで前のめりになったが、主の手から離れた杖をつかみ取ると、右足の膝の上にそれを乗せ、一気に折り曲げた。
強化魔法で倍加された全身の力は、魔法の杖など敵ではない。
ボキッと乾いた音を立てて折れる杖。
その瞬間、ドラゴンは大量の光の粒となり、崩れ落ちて消えていく。
渦巻いていた暗雲も、夢でも見ていたかのように消え失せた。
ゲルトルートの幻影魔法が破れたのである。
「畜生! 畜生! 畜生! 畜生! 畜生!」
彼女は半べそになった顔を下げて立ち上がり、サイドテールを振り乱しながら、フェリクスの立っている場所へ逃げ帰った。
フェリクスは、流し目で敗者を一瞥し、彼女に聞こえるような舌打ちをした。




