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僕と幼馴染みと黒猫の異世界冒険譚  作者: s_stein
第二章 魔法学校編

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第75話 友情の剣

「どうしたの、これ!?」

 トールは見たこともない剣が投げ込まれて、目を丸くした。


「あんたの剣の魔法を真似したら出てきたの。燃えていない方があたしのよ」

「シャル、ありがとう!」


「同じく真似したら出てきちゃった。真っ赤に燃えているけど、柄は熱くないわよ。火の精霊の力が宿っているから、思う存分使ってね♪」

「マリー、ありがとう!」


 トールは右手で大太刀を、左手で燃える剣を抜き取った。

 そりが深く冷たく光る大太刀。

 反対に、赤く激しく燃える剣。


 そこへ再び、ドラゴンが火を噴いた。

 攻撃パターンに慣れた彼は、それを軽々と避け、ドラゴンに向かって二刀流の構えを見せる。


「お前、なにかい? あのドラゴンを剣で倒すって!? ハハハハハ! 馬鹿なことを!」

 ゲルトルートは、彼の二刀流の構えをあざ笑った。

 しかし、トールは柳に風と受け流す。

「その馬鹿なことを、これからやるのさ!」

 彼はニヤリと笑って、大太刀を振りかざし、ドラゴンの方向へ飛びかかる。

 彼女は、それを見て腹を抱えて笑い出した。


 チャンス到来!


 トールは、突然、ドラゴンから、笑い転げる女へと方向転換する。

 そして、二刀流の構えを保持したまま突進した。

 強化魔法を使っているので、人間とは思えない早さで、一気に距離を詰める。

 彼女がハッと気づいたときは、トールは3メートル手前にいた。


 ゲルトルートは両手をクロスして、瞬時に防御結界を張った。

 その結界の力を与えるのは、彼女が手にする魔法の杖。

 防御結界は、彼女の手前にて、すんでの所で展開された。


 トールのターゲットは彼女の魔法の杖。

 彼はそこをめがけて、思いっきり大太刀を振り下ろす。


 ガキイイイイインッ!!


 響き渡るのは、金属と硬質な何かが激しくぶつかる音。

 彼女の防御結界は、透明なクリスタルなのか。

 結界が、大太刀の極めて鋭い刃をしっかり受け止め、びくともしない。

 そのため、刀が宙にとどまったように見える。


 彼は、さらに燃える剣を振り下ろす。

 これも固い音を立てるだけ。

 二本の武器が宙に浮いたままだ。


 トールは思った。

(斬れないなら、このまま力業で押すしかない!)

 そこで、グイグイと力任せに刀と剣を押しつけた。


 ドラゴンの方は大丈夫だろうか!?

 彼は、術をかける主のそばに自分がいれば、ドラゴンは主を守るため火を噴かないだろうと読んでいた。

 事実、ドラゴンは二人の戦いを眺めているだけ。

 彼の読みは当たったのだ。


(魔法よ! 指輪よ! もっと! もっと! もっと力を与えてくれ!!)

 トールは全体重を載せて、見えない防御結界を押しまくる。

 防戦一方となったゲルトルートは歯を食いしばり、押されまいと足を踏ん張る。

 しかし、彼の圧迫を跳ね返すことはできず、逆に後ろへ後ろへと押されていく。


 見ている方も、拳を握り、歯を食いしばるほど力の入る押し合い。

 押せ! 押せ!

 押して、押して、押しまくれ!

 特待生達は、声に出さない声援を送った。

 すると、彼らの祈りがようやく届いたのか、変化が起きた。


 ピキッ、ピキッ、ピキピキッ!


 結界にひびが入るような音がする。


 ピキピキッ、ピキピキピキッ!


 後一押しで、割れる!


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 トールは猛獣のような咆哮を上げ、強化魔法で高まっている腕力を活かし、さらに力を加えた。

「くっそおおおおおおおおおお!!」

 ゲルトルートが、まぶたを固く閉じ、歯が折れるくらい力を振り絞ってトールを押し戻そうとする。


 バリバリバリバリ!


 ついに、ガラスが割れるような大きな音が響き渡る。

 防御結界がバラバラに砕け散ったのだ。


 トールは力を弱めない。

 そのため、突き抜けた大太刀と炎の剣が、勢いよく魔法の杖に食い込んだ。


 ついに捕らえられた魔法の杖。

 彼女は歯をむいて、両手で杖を支える。

 一方、彼は容赦なく、刀と剣で押しまくる。

 彼女の腰が徐々に沈んでいく。

 たわむ杖がギシギシと音を立てる。


 ついに、彼女が力尽きた。

 背中からドオッと倒れたのだ。

 彼は弾みで前のめりになったが、主の手から離れた杖をつかみ取ると、右足の膝の上にそれを乗せ、一気に折り曲げた。

 強化魔法で倍加された全身の力は、魔法の杖など敵ではない。

 ボキッと乾いた音を立てて折れる杖。


 その瞬間、ドラゴンは大量の光の粒となり、崩れ落ちて消えていく。

 渦巻いていた暗雲も、夢でも見ていたかのように消え失せた。


 ゲルトルートの幻影魔法が破れたのである。


「畜生! 畜生! 畜生! 畜生! 畜生!」

 彼女は半べそになった顔を下げて立ち上がり、サイドテールを振り乱しながら、フェリクスの立っている場所へ逃げ帰った。

 フェリクスは、流し目で敗者を一瞥し、彼女に聞こえるような舌打ちをした。


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