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僕と幼馴染みと黒猫の異世界冒険譚  作者: s_stein
第二章 魔法学校編

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第67話 異世界で再会した転生者達

 講堂の中は、やや小さめの体育館くらいの広さだ。

 天井が無駄に高く、窓がなく、壁は石造りのため、晩夏が過ぎたばかりなのに寒々としている。


 講堂と称しているが、雨天時の室内競技など、いろいろな目的に使用するため、据え付けの椅子がない。

 新入生達は、壁際に荷物を置いて、講堂の真ん中に集まってザワザワしている。

 入り口から入って向かいの奥、ちょうど彼らが立っている位置から15メートルくらいの所に、1メートル半くらいの高さの狭い舞台がある。


 今その舞台の真ん中に、黒いローブを着て三角の帽子をかぶった校長先生がちょうど立ったところだ。

 一年間お世話になる教師達の紹介は後なのか、他に先生らしい姿はない。


 彼は、新入生に舞台へ近づくように促した。

 それから一人ずつ名前を呼んで、八人ずつ四列に並ばせる。

 それが終わると、合計三十二人の新入生を見渡しながら、よく通る太い声で話し始めた。


「皆さん、入学おめでとう。私は、コルネリウス・グラートバッハ。この学校の校長です」


 それから、魔法学校の歴史や、魔法使いの心得、学校生活の注意点など、種々雑多な長い話が始まった。

 校長先生の話が長いことは、異世界でも同じようだ。

 もちろん、新入生にとって長話は拷問に等しく、耐えがたい苦痛となっていく。

 しかも、立ったままだから、足も腰も疲れてくる。

 あくびもおしゃべりも始まる。


 グラートバッハ校長は、毎年繰り返しているので慣れたものか、飽きてきた新入生の態度を見るとすぐに話を切り上げ、一人一人に前に出てきて自己紹介をするように促した。


 個性あふれる自己紹介が二十六人分続いた。

 適度に笑いも起きて、新入生はリラックスできたようだ。

 残るは、トール達四人プラス女の子二人であった。


 次の順番だったトールが列の前へ出ようとすると、グラートバッハ校長が「ちょっと待って」と制した。

 そして、彼は生徒全員を見渡し、ゆっくりと話し始めた。


「ちょっとここで、特待生を紹介しよう。皆さん、この中に、少し違う形の耳で、黒い目の色をして、尻尾がない六人がいることに気づいたでしょう? 実は、この六人は特待生なのです。さあ、特待生は全員前へ」


 実は、校長が改めて言うまでもなく、講堂に入る前から、トール達四人プラス女の子二人の容姿の違いは、多くの生徒の注目を集めていた。

 一方、トール達四人は、残りの女の子二人を違う意味で注目していた。


(何か、この二人は僕たち四人と人種が似ている。

 しかもどこかで、見た覚えがある。

 前世か?

 はっきりと思い出せないが、初対面ではない気がする)


 外国人の中に知り合いの日本人を見つけたような驚きに似た感覚。

 彼らの気持ちはそれに似ていたが、不気味に感じた点が異なっていた。


 六人が前に出て横一列に並ぶと、グラートバッハ校長が嬉しそうな顔で話を再開した。

「特待生はローテンシュタイン帝国から四名。

 それに大変珍しいことに、フランク帝国の留学生が一名。

 過去に一回あったくらいかな。

 そして、エルフ族から初めての進学者が一名。

 これは我が校始まって以来の出来事です。

 エルフ族からはもう一名、年少組二年生に編入者がいます」


 ローテンシュタイン帝国を敵視するエルフ族は、決して学生を進学させなかったのだが、どういう風の吹き回しだろうか。

 特待生以外の生徒達は、校長先生の話など上の空になっていて、自分たちと違う特徴を持つ六人をしげしげと眺めていた。

 特に、エルフ族特有の横に尖った耳を持っていないのに『エルフ族出身』という、眼鏡をかけた少女に注目が集まった。

 誰もが、こいつは偽者だと思っていた。


 まずトール達四人が、集まる視線を浴びながら、恥ずかしそうに自己紹介した。


「トール・ヴォルフ・ローテンシュタインです。体を動かすことが大好きです」

「シャルロッテ・アーデルスカッツよ。一緒に楽しくやりましょう」

「マリー=ルイーゼ・ゾンネンバオムです。私も体を動かすことが好きです」

「ヒルデガルト・リリエンタール。本を読むのが好き」

 四人は、痛いほど刺さる視線に緊張していて、言いたいことはほとんど言えずじまいだった。それで、一言紹介で早々に切り上げた。


 次に、二十六人の視線が、腰まで届く長い黒髪を持ち、ひどく痩せた女の子に投げかけられる。

 彼女は、それに臆することなく、にこやかに自己紹介を始めた。

「フランク帝国から来ましたイヴォンヌ・サン=ジュールです。ローテンシュタイン語は不自由していません。どうぞ、いつでも話しかけてください。お友達になりましょう」

 そう言って彼女は、流し目をトールに向ける。

「ね? ハヤテ……、いや、トール」


 いきなりのファーストネームの呼びかけに、特待生以外は大騒ぎになった。

 ファーストネームで呼ぶことは、この世界では『仲がいい』『気がある』ことになる。

 早くも、恋人宣言かと、生徒達は色めき立った。


 それどころではないのは、トールを初めとする四人。

 特に、心中穏やかではないのはシャルロッテだ。


 彼らは、メビウスから「異世界から自分たちと似た人種の二人が来たらしい」ことを聞かされていた。

 さらに、バスの事故に遭ったのは六人であることも、マリー=ルイーゼの証言から知っていた。

 それらを総合すると、後の二人が、ここにいる二人である可能性が濃厚なのだ。

 しかも、「ハヤテ」という名前を口にして言い直している。

 四人の疑問は、確信に変わっていった。

 この異世界に知り合いが転生してきている、と。

 ならば、もちろん、あと一人は――。


 最後に、ピンク色の髪でやや太っている女の子が、痛いほどの視線を浴びながら自己紹介を始める。

「グリューネヴァルトから来ましたイゾルデ・ヴァルハルシュタットです。エルフ族は今までこの学校に入学するのを拒否していましたが、今回から友好の証としてこの学校に来ました。エルフ族は、みなさんが思っているほど悪い人達ではありません。みなさんは間違っています。本当は心優しい人達なのです。どうか、信じてください。よろしくお願い――」


「いやあ、それはないなぁ!」

 急に、一番前の中央にいた金髪碧眼の少年が、彼女の言葉を遮った。

 彼の髪型は、短く刈り上げた七三分け。

 整髪料か何かでぴったり固めた髪の毛をしきりになでて、口を歪める。

「こいつ、耳が尖ったエルフでもないのに、エルフ面をして、一族を擁護している。おかしいじゃないか?」


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