第65話 異世界で養子になった
「以上でおわかりのように、ここにいる少年少女は、潜在能力に関して言いますと、大人を凌駕する驚異的な能力を有していると言えます。参考までに、帝国魔法学校の教師は、およそこのような数値になります」
メビウスはそう言うと、そばに立てかけてあったプラカードのようなものを持ち上げた。
「この教師の数値は、我が国の魔法使い全体から見ると、もちろん十分高い数値です。宮廷に仕えている魔法使いも、似たようなものです」
魔力最大容量:10000~20000
魔力最大強度:4000~8000
耐性力:3000~6000
持久力:5000~8000
瞬発力:3000~6000
知 力:10000~20000
生命力:10000~15000
「これを見ていただいて先ほどの数値と比較すると、知力と生命力は、まだ子供ですから魔法学校の教師に比べると値は小さいです。
ただし、ヒルデガルトの知力は、べらぼうに抜きん出ていますが。
それ以外は、もうおわかりのように、教師をも遙かに凌駕しております。
トールを例にして述べましょう。ここでは、最低値と比較します。
魔力最大容量は25倍の数値です。
魔力最大強度は30倍の数値です。
この数値を実際の力で表現するには二乗しますから、25の二乗で625倍の容量、30の二乗で900倍の強度となります。
つまり、一流の魔法使いの900倍の強度がある魔法を操ると言うことです。
我が国はおろか、他国でもこのような数値の能力を持っている者はいないと思われます。
正に、一騎当千、世界最強レベルです。
トールが別格なので霞みますが、少女達も非常に高い数値です。
シャルロッテは100倍の容量に300倍の強度、
マリー=ルイーゼは77倍の容量に225倍の強度
ヒルデガルトは60倍の容量に156番の強度です」
そうして、メビウスはプラカードを下に置いて、再び深くお辞儀をした。
「重ねてお願い申し上げますが、このような逸材を魔法学校でキチンと教育させ、魔法使いとしての正しい道を歩ませるため、養子にしていただけますよう、ご検討をお願い申し上げます」
メビウスの「ご検討ください」が「ご歓談ください」になったかのように、本日の招待客がワイワイガヤガヤと議論を始める。
気をもむメビウス。
ショーを終えて満足げなクラウス。
大人達のあでやかな服装にキョロキョロする少年少女達。
しかし、長く続くと思われた議論だったが、2分程度で終了した。
まず、ローテンシュタイン皇帝が口火を切った。
「今すぐに養子にしたいところだが、親が現れるかもしれぬ。少し猶予期間を設けてはどうか?」
メビウスは少し頭を下げて質問する。
なぜなら、皇帝陛下に面と向かって質問するのが、はばかられたからだ。
「いかほどでしょうか?」
「魔法学校の新学期はいつから始まる?」
「あと11日で夏休みが終わり、新学期です」
「では10日でどうだ?
彼らの能力は伏せて、この子の親は名乗り出ろと顔写真の広告を出す。
能力を公表したら、自分のものにしたがる輩が出てくるだろう。
我が国だけではなく、近隣諸国にも同時に出す。
10日を経過して親あるいは親族が現れないなら、その時点で養子とする。
そして、晴れて帝国魔法学校へ入学となる」
「その間の扱いは、どのようになるのでしょう?」
「仮の養子として扱う」
「仰せのままに」
皇帝は周囲を見渡し、「トールを養子にしたい者は名乗り出よ」と促す。
しかし、これだけ高い潜在能力を持つ少年を直ぐさま指名するのは、ある意味、欲が深いと思われる危険がある。
ここは遠慮した方が得策という空気になり、誰も手を上げない。
皇帝の発言は、むしろ、皆の顔を下に向かせる結果となった。
1分ほど待った皇帝は、いつまでも沈黙が続くので、ため息をつきながら「今日は怖じ気づいた者ばかりおるな」と漏らす。
皆は、怖じ気づいたのではなく、ここは少年を皇帝陛下のそばに置く方がふさわしいと考えただけなのだ。
だから、差し向けられた言葉に肯定できず、下を向いて苦笑するばかり。
すると、皇帝のそばにいた若くて背が低い女性が、きらびやかなドレスを揺らし、皇帝を見上げてニコッと笑う。
「私が養子にしてもよろしくってよ」
これを聞いた皇帝は、満足そうに笑みを浮かべる。
「ではトールは、アーデルハイトの仮の養子とする。そうだ。ミドルネームには、ヴォルフを入れよ」
ここで拍手が巻き起こった。
これには理由がある。
実は、今提案したアーデルハイトは第五皇女。
16で結婚したが、20になっても子供ができない。
21の誕生日までに懐妊、もしくは養子ができなければ王室から去ることになる。
なので、養子を迎えることは皇女の地位を確実に保てることを意味しており、周囲の人々はそれを祝福していたのだ。
クラウスが、すぐさま言葉を挟んだ。
「トールには、懐いている黒猫がいます。一緒に引き取っていただけますか?」
すると、黒猫マックスが、素早くトールの足下にやってきて「ニャー」と鳴く。
「まあ、可愛い子猫。ええ、よろしくってよ」
アーデルハイト第五皇女が、黒猫を見て満面の笑みを浮かべた。
トールが黒猫マックスのおまけ付きで収まるべき鞘に収まると、皆は安堵し、すぐさま少女の獲得に動き出した。
まず、恰幅が良く豊かな口ひげを蓄えた50代の男性が挙手をした。
「あー、シャルロッテは、わしの仮の養子としよう」
メビウスの目が輝いた。
「アーデルスカッツ侯爵。お申し出、誠にありがとうございます」
すると、アーデルスカッツ侯爵の隣にいた豪奢なドレス姿で長身の30代の侯爵夫人マリアが、こぼれるような笑顔にちょっと眉をひそめた表情をしながら、両手を大きく広げた。
「シャルロッテ。なんて、かわいそうに。両親の記憶まで失って、さぞ寂しかったでしょう。あなたは今日からシャルロッテ・アーデルスカッツ。家族として喜んで迎えましょう」
シャルロッテは「はい」と言って侯爵夫人に近づいて行き、長い腕で優しく抱かれた。
続いて、恐ろしく長身で山羊のように長い顎ひげを蓄えた50代の男性が挙手をした。
「では、マリー=ルイーゼは、わしの仮の養子としよう」
メビウスは安堵の表情を浮かべた。
「ゾンネンバオム伯爵。お申し出、誠にありがとうございます」
すると、ゾンネンバオム伯爵の隣にいた小太りでドレスが窮屈そうな40代の女性、彼女は伯爵夫人バルバラだが、最高に幸せそうな笑顔で太い腕を広げた。
「マリー=ルイーゼ、ようこそ。今日からあなたは、マリー=ルイーゼ・ゾンネンバオムよ」
マリー=ルイーゼは「はい」と言って伯爵夫人に近づいて行き、ちょっと苦しそうかなと心配するくらいギュッと抱きしめられた。
最後に、若くて理知的な20代の男性が挙手をした。
「となると、私がヒルデガルトを仮の養子に迎えることになりますな」
メビウスは涙が出そうな表情になる。
「リリエンタール子爵。お申し出、誠にありがとうございます」
すると、リリエンタール子爵の隣にいた小柄で質素なドレスの20代の女性、彼女は子爵夫人カタリーナだが、彼女は優しいお姉さんのような表情を見せて腕を広げた。
「おいで、ヒルデガルト。今日からあなたは、私達の自慢の娘、ヒルデガルト・リリエンタールよ」
ヒルデガルトは無言で子爵夫人に近づいて行き、ソッと抱擁された。
こうして、異世界へ転生した少年少女は、養子として王族または貴族の家に迎えられた。
不慮の事故から始まって、偶然の連続で、ついに幸運を勝ち取った。
第一章の冒険はここで終わる。
◆◆◆
その後、トール達の親探しは、滑稽なほどの混乱を引き起こした。
どう考えても種族が違う連中が、役所の前に長蛇の列を作り、我こそが親と名乗り出る。
簡単に働き手の子供が手に入ると勘違いした輩が多かったのだ。
もちろん、全員が偽物であることが露呈して、悔し顔で去って行った。
この混乱ぶりや、少年少女達が仮の養子として引き取られた先で習慣の違いにより起こったドタバタ劇は、それだけでも一章を成すほどのお話になるのだが、長くなるので割愛する。
第一章はこうして終わるのだが、彼らは、喜びもつかの間、予想外の困難に見舞われる。
メビウスの養子縁組工作は、裏では別の動きを誘発していたのだ。
それは、何の前触れもなく、しかも、魔法学校入学の初日に露見する。
どこかへ連れ去られた二人の幼馴染みも、使命を帯びて暗躍する。
でも、彼ら四人と一匹は力を合わせ、お互いを助け、持ち前の強大な魔力や知力であらゆる困難を切り抜けていく。
トール達は、正しい魔法の使い方をマスターするには、清く正しい心を持つことを覚えていくであろう。
最初はまだ魔法に不慣れなところや技術に未熟なところもあるが、必ずや異世界最強の力を存分に見せつけるはずである。
では、彼らの心の成長と、帝国魔法学校での活躍ぶりを第二章で見てみよう。
◆◆◆
ここまでお読みくださいまして、誠にありがとうございます。
次は、学園物の第二章が始まります。
入学早々、異世界最強の魔力を見せつける主人公トール。
彼の確保に動く、周辺諸国。
第二章も逐次アップしますので、お楽しみにお待ちください。




