第64話 大人を凌駕する潜在能力
ガラスケースには、以下の表示が輝いていた。
魔力最大容量:250000
魔力最大強度:120000
耐性力:22560
持久力:35780
瞬発力:57900
知 力:2120
生命力:3870
経験値:0
スキル:なし
長い沈黙は、もう一回測定しているのではないかと思うくらい続いた。
皆の視線は、数値を上から下から、なめ回す。
0の数を数え直す者もいる。
こうした中、長い沈黙を破ったのは、数値の暫定1位にいたフリッツだった。
「これは、……いったい、……装置が壊れたのではないのか?」
クラウスは、吹き出しそうになるのをあからさまに堪える仕草をする。
そして、問いかけたフリッツには目もくれず、他の目撃者達に向かって答える。
「私も最初はそう思いました。装置が壊れた、目盛りを振り切ったと。我が国の少年の平均値を超えるなんてものではありません。これは、一流の魔法使いのレベルを遙かに超えています。信じられないくらいです」
目撃者達は『信じられない』という言葉に少し動揺した。
なぜなら、ローテンシュタイン語では、それが『異端の』と語源が同じだからだ。
老人メビウスはそれに気づいたが、気づかない青年クラウスは、フリッツに挑戦状を突きつける。
「なんでしたら、ここで貴殿はもう一度測定されますかな?」
フリッツは、目が大きく泳いで、後ろにたじろいだ。
「いいえ。……結構」
暫定1位の彼が引き下がったことに満足したクラウスは、次なる行動に出る。
「では、残りの少女の数値を見ていきましょう」
その言葉は、ほとんど勝利宣言だった。
警備兵達は全員、顔も上げることができない。
ついに、長身でたくましい大人達が、小柄な少女に負けるのだ。
測定をする前から、部屋の中には不戦敗の空気が漂う。
クラウスは口角をキューッとつり上げて笑みを浮かべ、金髪で腰の長さに届くツインテールの女の子に手招きをする。二城カリンが転生した少女だ。
「私達は彼女をシャルロッテと名付けました。さあ、シャルロッテ、入って」
彼に促されると、シャルロッテは、普通の少女ならば不安がるであろう装置に向かってスタスタと近づいて、自分で扉を開けた。
そして、ツインテールを腰の周りで回転させるように、サッと中へ入っていく。
慣れているのも当たり前だ。
クラウスは事前に、彼女達をこの装置で何度か調べているからである。
ガラスケース前で立ちすくむ目撃者達は、上半身だけ前の方へ近づけた。
装置が起動されて次々と表示される数値は、こんなに可愛い少女の潜在能力としては想像を絶するものだった。
魔力最大容量:100000
魔力最大強度:70000
耐性力:12650
持久力:25130
瞬発力:20860
知 力:1280
生命力:2210
経験値:0
スキル:なし
誰もが言葉を失った。
目をこする者もいる。
自分は熱でも出たのではないかと汗を拭う者もいる。
知力がえらく低いのは、誰も気づかなかったみたいだが。
クラウスは次に、オレンジ系の色の髪で腰まで垂れたポニーテールの女の子を呼ぶ。参上ナナセが転生した少女だ。
「私達は彼女をマリー=ルイーゼと名付けました。入って、マリー=ルイーゼ」
彼女はポニーテールをリズミカルに揺らしながら、測定されることが楽しいのか、満面の笑みを浮かべてガラスケースに入った。
まるで、手品のアシスタントみたいな笑顔を聴衆に振りまいている。
その後、測定装置がはじき出した数値は、これも驚異的だった。
以下の数値は、決して手品ではない。
魔力最大容量:88000
魔力最大強度:60000
耐性力:11810
持久力:20480
瞬発力:18950
知 力:5980
生命力:2850
経験値:0
スキル:なし
ガラスケース前の人々からため息が漏れる。
やっと、声が出せたという感じだ。
最後は、銀色の髪で短めのショートヘアの女の子だ。もちろん、市場アオイが転生した少女だ。
「私達は彼女をヒルデガルトと名付けました。さあ、こちらに来て」
彼女は眠そうな、やる気のなさそうな顔でガラスケースの中に入っていく。
背が低いので、か弱い女の子というより幼女としか見えない。
熊の人形を持って指をしゃぶっている姿が似合いそうだ。
人々は、今度こそは低い数値だろうと確信した。
もし、この幼女みたいな子供が高い数値をはじき出したら、いよいよ自分の頭がおかしいのだ。
誰もがそう思いたい気分だった。
そして、彼らは装置へ3、4歩近づいた。
しかし、期待は完全に、そう、見事なくらい完璧に裏切られた。
これまたとんでもない数字を装置がはじき出したのだ。
彼女の見た目のやる気のなさは、単なるカモフラージュに違いない。
魔力最大容量:75000
魔力最大強度:50000
耐性力:9500
持久力:15760
瞬発力:8480
知 力:41000
生命力:1970
経験値:0
スキル:なし
数値の目撃者達は、特に知力の高さに度肝を抜かれ、騒然となる。
フリッツの7倍を超えるのだ。
これでは彼が阿呆に見えてくるではないか。
いや、少女が化け物なのだ。
クラウスは、したり顔で測定ショーの観客を眺めていた。
ここで、今まで沈黙を守っていたメビウスが一歩前に出て、白髪頭をかきながら切り出した。




