第6話 最終手段
「二人とも離れて!!」
トールの忠告に、シャルロッテとマリー=ルイーゼは状況を即座に判断し、地面を蹴って10メートルほど後ろへ退く。
苦悶する巨体にとって、あの程度の攻撃では致命傷に達していない。
いつまた炎を吐いて反撃するかわからないのだ。
よく見ると、傷口が徐々に塞がっていくではないか!
奴は自分で自分を治癒できるらしい。
「また火炎を使われたら、たまらないな。ここは仕方ない。速効で倒すには『あれ』を使おう」
トールは、サラサラヘアを風になびかせ、片方の口角をつり上げてえくぼを作る。
「何言ってんのよ! 『あれ』を使うのは超危険よ! トール! お願いだから、やめて!」
シャルロッテは右手をめいっぱいトールに差し出し、眉をひそめ、必死に制止する。
「シャル。そんなに僕を心配してくれるのかい?」
そのトールの言葉に、彼女は目をカッと開き、首まで赤くなってむくれる。
「勘違いしないでよね!! 『あれ』を使われると、私達の方が超危険なのよ!!」
一瞬、間ができた。
「ぷっ! ハハハハハハハハハ! そりゃそうだね!」
トールは、壮大な勘違いに思いっきり吹き出し、少し涙目になった。
でも、避難勧告は忘れなかった。
「100メートル以上は下がっていてね、わかっていると思うけれど。ヒル達にも伝えておいて」
2、3歩前進した彼は、腰に手を当ててハッと気づいた。
「あ、その前に、シャル。悪いけど、剣を預かってくれないか?」
シャルロッテは、いつものことなので、ブー垂れずに素直に預かる。
「そうね。トールはこれから、空高ーくぶっ跳ぶからね」
「おいおい、ロケット花火みたいに言わないでほしいなぁ」
「いいえ、似たようなものよ。だって、あれは、『落下する巨大な花火』だから」
「花火は落下しないけどね」
毎回彼女は、彼が『あれ』を使うとき、この見た目よりもずしりと重い剣を鞘ごと受け取るのだが、これを軽々と振り回すには細い腕をしているトールが未だに信じられない。
彼女の魔力の潜在能力は女の子の中でも飛び抜けて凄いのだが、それでも彼とは歴然の差があるので、毎回剣を預けられる度に痛感させられるのだ。
『自分はこんなに鍛えても彼に劣るのか』と。
彼女達が避難したことを確認したトールは、ズボンの両方のポケットに両手を突っ込んで、右足をつま先立ちにし、下を向いて短く詠唱した。
そう。本人は無意識だが、周りは『格好つけている』としか思えないポーズで。
実は、本人にとっては、これが一番心が落ち着き、集中できるポーズなのだが。
そして、サラサラヘアをなびかせて、最終敵の顔に視線を向け、これから間違いなく起こる未来の結末を思い描き、不敵な笑いを浮かべる。
足下には幾何学模様に古代文字の大きな魔方陣が黄金色に光輝き、準備が整った。
「せいっ!」
彼は、まだ苦悶する奴の眼前を通り過ぎ、鳥のように空高く舞い上がった。