第59話 新たな精霊の契約
「入るわよ!」
迫力のある太い声がしたかと思うと、ドアを叩いた張本人とおぼしき人物が乱入してきた。
恐ろしく背が高い金髪灼眼の女性二人だった。
二人とも白いドレスを纏っている。
トール達は、ドレス姿からゾフィーとアンジェリーナを連想したが、背が高いし、明らかに顔つきが違う。
声の感じから男を連想したが、顔はどうみても女性だ。
「メビウスはどこ!?」
トールは先頭の女性に目の前まで迫られ、詰問される。
睨み付けるような顔が怖い。
彼は、声を出せず、首を横に振るばかりだった。
「あら、この子。めっちゃ凄い魔力の持ち主じゃない? 私と契約するのはこの子?」
「フェニクス。違うわよ。私よ」
後ろにいた女性が、少年のような声で反論し、フェニクスの左肩をつかむ。
「何よ、アクアリウス! あんたは引っ込んでなさいよ!」
フェニクスがアクアリウスの手を振り払った。
「何の騒ぎかね!?」
「どうした!?」
メビウスとクラウスが、続けて食堂になだれ込んできた。
フェニクスが目をむいてメビウスを睨む。
「騒ぎって、ずいぶんな言い方じゃない!? メビウス! あんたが呼んでいるってゾフィーから聞いたから、こうしてここまで来てやったのよ!」
「はて? お前さん、誰だね?」
メビウスは目を細める。
「何よ! あんた、もうろくしたの? 目ん玉ひんむいてよーく見なさいよ! フェニクスよ、フェ・ニ・ク・ス! こっちはどうでもいいわ」
「ひどっ! アクアリウスよ!」
「なっ……、火の精霊と水の精霊! なぜここに!?」
「だーかーらー。あんたに呼ばれたんだって。で、私と契約するのは、この男の子?」
「おいおい、ゾフィーに頼んだ覚えないぞ。わしにはサッパリわからん」
「何ですって!? あのねえ……。ゾフィーが言うには、メビウスの所に行って、私達と契約する子がいるから契約してこいって。普通は、契約する側から来るのに、逆にこっちから来てやったんだからね!」
「ああ……。そういう話になっているのか。なるほど。わかった、わかった」
「じゃ、いいのね? 私はこの男の子となのね?」
「いや、その子はゾフィーと契約済みだ」
「ちっ! あん畜生! もう、つばつけやがったか! ……じゃ、こっちの金髪の子? あら、この子も凄い魔力持っているから、いいじゃない♪」
「そっちは、アンジェリーナと――」
「なにー! こっちも契約済み? じゃ、こっちのオレンジの髪の子は? この子も契約済みなら、あんたを張り倒すわよ!」
「いや、まだだ。もう一人の銀髪の子もな」
「おお、イイ体つきしているじゃないの? 力ありそう。いいねぇ♪ ……てか、この子、火の属性持っているじゃない? むこうは……、水の属性ね。はい、アクアリウス、決まりよ、あんた」
「しゃーないな。このちんちくりんか……。まあ、でも、潜在能力がめっちゃ高いから、よしとしようか」
メビウスは、首をかしげながら問いただす。
「で、まさかと思うが、……おぬしら、本当にここで契約の儀式をするのかね?」
「「馬鹿言っちゃいけないよ!!」」
フェニクスとアクアリウスがハモった。
「あたしはこの子を借りてくわよ。アクアリウスはそっちの子。こっちに手を出したら、火傷するわよ」
フェニクスはマリー=ルイーゼの左腕を強引につかむ。
「わかっているわよ。水の精霊が火の属性の子に手なんか出すわけないわよ」
アクアリウスもヒルデガルトの左腕をつかむ。
「おぬしら、どこへ行くんだね!?」
「私達の儀式の場所よ! こんなぼろいところで、神聖な契約なんかできる訳ないじゃない! さあ、行くよ! 明日ここまでこの子を届けてあげるから、それまで借りるよ!」
フェニクスとアクアリウスは、それぞれマリー=ルイーゼとヒルデガルトを引きずるように連れて、食堂を出て行った。
メビウスとクラウスも、心配で後を追った。
「あ、それから!」
フェニクスは、廊下で立ち止まって、メビウス達の方へ頭だけ振り返る。
「カッツェンブローダ村の馬小屋で、また魔力値が高い女の子が二人現れたって。フクロウ便来ていない? 千里眼から」
「奴からのフクロウ便? ああ、来てはいたが、まだ読んでいない」
「何無視してんのよ! 読みなよ! もう各国が動いているって噂。横取りされても知らないよ!」
フェニクス達は、床を踏みならして去って行った。
台風一過のような騒ぎにメビウスは呆然としていたが、すぐに正気に戻り、クラウスに指示をした。
「うちの研究員がまだ作業をしていると思うから、誰か適当に人選して村に送ってくれ。馬車は当てにならん。車で行ってもらえ。アンジェリーナには、今からわしが連絡し、現地で合流してもらう。連絡用にフクロウを渡しておくこと」
「わかりました」
その後クラウスは、まだ作業中の研究員の一人に火急の用件であることを伝え、拝むように頼み込んだ。
そして、研究所が所有している自動車で村まで行ってもらうことに成功する。
すっかり蚊帳の外になったトールとシャルロッテは、よろよろと椅子に腰を下ろす。
二人は、村に現れた『二人の女の子』に対して、一抹の不安を感じた。
想像していた幽霊が現れたか?
まさか?
でも、二人ということは……やはり?
トールもシャルロッテも、椅子から立ち上がれないで、震えていた。
二人とも震えの意味は違う。
トールは、会いたくない二人の顔に震え、シャルロッテは、ライバルの二人の顔に怒りで震えていたのだ。




