表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕と幼馴染みと黒猫の異世界冒険譚  作者: s_stein
第一章 異世界転生編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

58/369

第58話 前世を思い出す少年少女

 メーヴェンブルクは、ローテンシュタイン帝国でも小規模な町。

 その中心街に、ひときわ大きな白い建物群がある。

 これがローテンシュタイン帝国魔法科学研究所。

 大小7つの研究棟を持つ。


 午後9時。

 雨は小降りになり、ガス灯の光が揺らめいている。

 その光は、建物の壁や街路や水たまりを照らすも、映し出す人影は全くない。


 そんな中、2台の馬車が、ずぶ濡れになりながら研究所の前に停車した。

 トール達の長い長い旅が、ようやく終着駅にたどり着いたのである。


 全員が馬車から降りると、メビウスが先頭の馬車の御者に「ご苦労さん」と声をかけた。

 御者は、顔をクシャクシャにして笑顔になるも、眉は潜めていた。


「メビウスさん。もうあんなことはゴメンでさあ」

「そう言わず、また頼む。ほら、報酬ははずむよ」


「これじゃ、割があわねえですぜ」

「じゃ、ほれ。追加だ」


「おお! こんなに金貨をいただけるんですかい!? 毎度あり。でも、次は他を当たってくだせえ」

「おいおい、だったら少し返せ」


「へへへ! 迷惑料と屋根に穴を開けた修理代だと思って、諦めてくだせえ。それじゃ!」

「そう言われちゃ、仕方あるまい」


 メビウス達は、ちゃっかり金貨をせしめた御者達が操る馬車を見送った。

 その姿が闇夜に消えた頃、メビウスは「じゃ、中へ入ろう」と言って一同を建物へ案内した。


 彼らが向かったのは、一番奥の離れみたいな二階建ての建物だった。

 窓が一階、二階にそれぞれ4つずつ見える。

 建物が全部真っ白なので、敷地内にあるガス灯の明かりでも、建物がくっきりと見える。

 トールは、病院を連想した。おそらく、他の彼女達三人も。


 メビウスが先頭になって玄関から入り、壁のスイッチで廊下の白熱球をつけた。

 外はガス灯だが、建物の中は電気のようだ。


 そして、トール達を招き入れると、彼らを一階のシャワー室へ案内した。

 彼は、「パジャマを取ってくるから、ここでシャワーを浴びていて」と言って、二階に上がって行く。

 クラウスは「じゃ、僕は食事の用意をするよ」と言って、一階の奥へ入っていく。


 『食事』という単語を耳にしたトール達は、忘れていた空腹を思い出してお腹を押さえ、顔を見合わせて笑った。

 考えてみたら、二日近く何も食べていないのだ。


 チョロチョロとしか出ないお湯に少年少女達は不満だったが、ともかくも汚れは落とせてサッパリした。

 それから、メビウスが用意したパジャマに着替えた四人は、クラウスに案内されて一階奥の食堂に向かった。


 建物の外壁と同じく、廊下の壁も天井も真っ白。

 それだけでなく、部屋の中の壁も、椅子もテーブルも全部白である。

 白づくしに、トール達客人は驚いた。

 色彩感覚がまるでない。

 まともに色が付いているのは、茶色い床と、テーブルの上のパンとスープだった。

 黒猫マックス用には、床に白いミルク皿が置かれていて、ミルクも含めてこれまた白づくし。


 パンとスープを視界に捕らえたトール達は、クラウスを押しのけて我先に椅子に着席し、食事の前の挨拶も忘れて、ガツガツとパンにかぶりついた。

 黒猫マックスも、脇目も振らず、ピチャピチャとミルクを舐めた。

 クラウスは、目の前の野生児達に困惑したが、「まあ、ゆっくり食べなさい」と言って部屋を出て行った。


 食べ物をすっかり平らげたトール達は、一息つくと、することもないので雑談が始まった。


 馬車の中で魔法を教わったこと。

 マリー=ルイーゼとヒルデガルトは、後から名付けられたこと。

 戦いの場面の数々。

 トールの加減を知らない、むちゃくちゃな攻撃のこと。


 特に、トールのハチャメチャぶりについて、シャルロッテが輪をかけて面白おかしく話した。

 彼は苦笑し、サラサラヘアに手を突っ込んで頭皮をかく。心の中では「次こそ絶対に失敗しない。一撃必殺」と決意しながら。


 談義に花が咲いて、一通り話題が尽きた。

 次に彼らが始めたのは、過去、すなわち、前世の記憶の掘り起こしだった。


 各自が思い出す前世の記憶。

 それをつなげて、何があったのかを知る。

 しかし、暗い話になっていくので、1分も持たなかった。


 静寂が続く中、突然、トールがテーブルに両手と額をつけた。まるで、土下座をするかのように。

「ゴメン! こんなことになるとは思っていなかった! 本当にゴメン!」

「なーに。でっかい大蛇をやっつけれたんだから、終わりよければ全てよしじゃない?」

 シャルロッテがトールの表情を見るためか、テーブルに左頬を載せて彼の顔をのぞき込んだ。


「違うんだ。バスに、海水浴に誘ったこと。……本当にゴメン」

 全員が、彼の真剣な謝罪に戸惑い、黙り込んだ。

「思い出したんだ。みんなで海水浴に行こうって、僕が言ったんだよね? それさえなければ、みんなだって……こんなことに……」


 シャルロッテが両手をパンパンと叩いて笑う。

「もー、その話はおしまい! みんな仲良く、こうしてまた再会できたじゃないの? これは奇跡よ。生きている世界がこっちになっただけの話! それでいいじゃない? 何が不満なの!?」


 トールは涙がこぼれそうになる。

 ツンデレばかりのシャルロッテにしては珍しく優しい言葉。

 天然ぼけの発言ではなく、ちゃんとした話し方。

 それが、彼の胸にじんわりと響いたのだ。


 彼はまぶたを痛いほど閉じて、男泣きを必死に我慢した。

 しかし、いくら固くまぶたを閉じても、しょっぱい水がにじみ出て、唇を湿らせる。


 シャルロッテは、トールの胸中を察して、慰めようとする。

「クラウスさんも言ってたけど、私達四人が一緒に乗った『ブス』の事故で死んで、転生して――」

「四人じゃないわよ。六人よ」

 突然、マリー=ルイーゼが、シャルロッテの言葉を遮った。


 その言葉に、部屋の空気が凍り付いた。


「嘘!? ここにいる四人じゃないの!? マリー……なんだっけ? ゴメン、マリーでいいよね? マリーの記憶違いとかないの?」

「ええ。シャル。私はマリー=ルイーゼよ。マリーでいいけど。で、私すっかり思い出したの。絶対六人よ!」


「私達以外のあと二人って、誰!?」

五條(ごじょう)アリス、禄畳(ろくじょう)ミチル」


 マリー=ルイーゼを除いて、他の三人は、幽霊でも見たかのような顔つきになった。


「僕も思い出した! 確かにその二人だ! でも、僕は誘った記憶がないよ」

 トールは、不思議そうな顔でマリー=ルイーゼを見つめる。

「うん、誘っていないはず。トールっていうかハヤテが言っていたもん。『誘っていないのに勝手に付いてきた』って。いやそうな顔をしていたよ」


 とその時、


 ドンドンドンドンドン!!


 食堂のドアが強く叩かれる音がした。

 中にいた四人は、恐怖のあまり、全員が椅子から跳び上がった。

 黒猫マックスは、トールの椅子の下に素早く隠れた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
cont_access.php?citi_cont_id=229234444&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ