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僕と幼馴染みと黒猫の異世界冒険譚  作者: s_stein
第一章 異世界転生編

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第52話 力に目覚める少年

 「梱包(フェアパックング)!」


 とその時、草原に響き渡る魔法名。

 メビウスだ!

 それが合図のように、トールは瞬時に茶色の毛布みたいなもので包まれ、宙に浮いたかと思うと、即座に遠くへ放り投げられた。


 入れ違いに、口が裂けんばかりに開いた二つの鎌首が毛布をかすめる。

 正に紙一重、毛髪一本の差。

 大蛇の獲物は空気と入れ替わった。


 どう猛な牙は、勢いを止められず、彼の仰向けに倒れた位置の草を刈る。

 狩りに失敗した鎌首同士は、一連の失策を相手の責になすりつけ、口を大きく開いて互いを威嚇しながら睨み合った。


 地面の上をローリングして大蛇から遠ざかる毛布の塊。

 争う鎌首のすぐ真下には、主の到来を信じて待つ彼の右腕とも言える長剣。


 毛布の塊の回転が止まると、それは膨らんだりしぼんだりを激しく繰り返す。

 そうして、悔しさのあまり手足をばたつかせるトールが、中から飛び出した。

 仁王立ちになった彼は唸り声を上げ、怒りの矛先を足下に向ける。

 大きく振りかぶって真下に繰り出された右手の突きが、彼の守護精霊が宿る大地を激しく叩く。


 ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!


 突如広がる地響きと縦揺れ。

 吹き上げる土砂。

 青ざめる一同と固まる大蛇。


 見よ!

 トールの拳の先には、直径3メートル、深さ1メートルのすり鉢状の陥没ができた!


 その張本人は、足の裏を支える地面が沈んで、自ら作った落とし穴へ転げ落ちた。

 穴の中で四つん這いになった彼は、うつむいたまま悔し涙をこぼす。

 しかし、急になにやら気づいて、破顔一笑した。


「そっか! これを奴にぶつけなくちゃ! そうだよね、ゾフィー!?」


 晴れやかな顔ですくっと立ち上がった彼は、涙を拭い、右手の拳を左手の平で二度三度受け止める。

 その時、精霊ゾフィーの言葉が彼の心をよぎった。


『首から提げているネックレスの先に付いているのは、契約の指輪よ。それを右手の指にはめれば最強の攻撃ができて、左手の指にはめれば最強の防御ができるの』


 攻撃は最大の防御。


 彼は笑みを浮かべながら、首の下にある服の隙間に右手を入れ、ネックレスを引っ張り出す。

 そして、ネックレスの先でくるくると回る指輪を左手でつまんで止めた。


「力を貸して! 大地の精霊よ!」


 彼は指輪をパチッと外し、右手の中指にはめた。

 どの指にはめるとは精霊から聞いていなかったので彼は無意識ではめたのだが、その位置は行動力と直感力が高まる位置だった。


 はめると同時に、彼を包む白い光が、粒をまき散らし、一層輝きを増した。


 衝迫に襲われ、全身の血が沸き立つ。

 力がみなぎり、肉体まで膨れ上がるかのようだ。

 闘争心が腹の底からこみ上げてくる。


 すがすがしい空気が胸一杯に入り込み、脳細胞まで冴え渡る。

 視力が上がり周囲の子細が見える。

 考察も推論も通り越して、瞬時に相手の真意や動きが、十手先まで読める。


 そして、高揚感が止まらない。


 トールは、自分の体に起こる変化を、何かの理由付けで理解しようとした。

 真っ先に思いついたのは、精霊ゾフィーが乗り移ったことだ。

 でも、あの女の子の姿からは、この力は説明が付かない。

 彼は仮の姿しか見ていないので仕方ないが。


 そこで、自分に英雄や豪傑の霊が乗り移ったと思い込むことにした。


「彼らの力を借りて、異世界最強の力を見せてやる!」

 彼は中腰の姿勢になり、腰の高さに両方の拳を上げて気合いを入れた。

 そして、標的を睨み付ける。


「行くぞ!! 邪悪な三つ首の悪魔め!!」


 彼は右手拳を腰の高さに構えて、早回し映画のように、すばやく大蛇めがけて突進する。

 迎え撃つのは、シャルロッテを恐怖に陥れた、向かって右の首。

 その首も、負けじとバネのように素早く伸びて少年へ襲いかかる。


 ドスウンッ!!


 肉塊の重量感ある音を響かせ、トールの右の拳は、腰の高さから天に向かって鎌首の顎を突き上げる。

 敵は口を開けるはずだから、正面からの突きを避けて、最初からアッパーカットを狙っての構えだったのだ。

 タイミングを外すと非常に危険な行為だが、彼には過剰なほどの自信があった。


 大蛇の下顎は一撃で砕け、拳が上顎に達したと思われるほど、顎肉がへこむ。

 敗北した大蛇の首は砕けた顎をだらんとさせ、時計の長針を下から上へ回したように、宙で円弧を描く。

 そうして、後ろにいた反対側の鎌首に鈍い音を立てて激突した。


 トールは近くにあった剣を取り戻す。

 刀身は主の纏った光を受け、生気を取り戻したかのように輝きを増した。


 彼はそれを満足げに見やると、視線を大蛇の真ん中の首へ向けた。

 軽傷を負ったその首は、少年の胸の高さでS字の体勢になっている。

 ちょうど牙をむいて鼻先を少年の方に合わせ、復讐しようと構えたところだった。


 彼は、長剣を上段に構えるも、一瞬心の中で不安が隙間風のように入り込んだ。

 さっきまでの気負いはどこへ行った?

 このままでは、また恐怖心で体が呪縛される。


「うおおおおおおおおおおっ!」


 心を侵食する不安を吹き飛ばすため、トールは咆哮した。

 それは敵への威嚇にもなり、攻撃の合図にもなった。


 先に大蛇が動いた。


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