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僕と幼馴染みと黒猫の異世界冒険譚  作者: s_stein
第一章 異世界転生編
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第5話 作戦、見事に失敗

 トールとマリー=ルイーゼが描く二つの放物線は、魔物の頭を遙かに超えた高さを頂点として、ぐんぐん下降し、大胆にも魔物の眼前を通過する。

 奴は、目の前に尻を向けた二人が落下するのを目撃し、『ついに尻尾を出したか。この機会を待っていたぞ』とばかりに、ハアアアアアアアアアアッと息を吸い込む。

 その音に感づいたトールは、「来るぞ! 着地して散開!」とマリー=ルイーゼに指示を出す。


 彼の言葉に少し遅れて、二人の背後からゴオオオオオオオオオオッという轟音と熱風を伴った炎が、彼らを捕らえて人型の炭にしようと襲いかかる。

 二人は地表に出現した輝く魔方陣へと舞い降り、膝をクッションにして腰を落とすと、すぐさま磁石のN極同士が激しく反発するように左右へ大きく跳んだ。

 同時に、奴の口から噴射された炎の帯が着地点とその周辺を容赦なく襲う。

 黒焦げになった石が無残に散らばる。まだ炎がくすぶっているもの、一部が溶けたものまである。

 鉄をも溶かすような、強烈な火力だ。


「ふー、間一髪免れた……」

「トール! 第二波が来る!」


 魔界の熊は、いつの間にか息を吸い込み終わっていて、トールの方へ口先を向け、二発目を噴射すると決めたようである。

 マリー=ルイーゼ側は、がら空きだ。


 彼女は小声で手早く詠唱すると、五本の指をいっぱいに広げた右手を高く上げて、鋭く「魔法の杖(ツァオバシュタプ)!」と叫ぶ。

 すると、右手の先の宙に、黄金色に輝く幾何学模様に古代文字の魔方陣が現れ、長くて白いリボンが付いた黒光りする棒が、その魔方陣から生み出されるようにゆっくりと出現した。

 彼女はそれをバシッとつかむと、頼れるお姉さんモードで「させるかああああああああああっ!!」と叫び、ルアーフィッシングのごとく棒を大きく振った。


束縛(ゲブントゥハイト)!!」


 彼女が発した魔法名により、三階建ての高さにある頭へめがけて、リボンが一直線に高速度で伸びていく。


 間に合うか!?


「グエッ……ゴエッ……」


 間に合った!


 奴が炎の塊を吐き出す直前に、リボンが奴の首に巻き付いて力強く絞めつけたのだ。

 しかし、ラスボスに値する魔物の怪力は、少女が魔法で身体を強化したところで、簡単に凌駕できる相手ではなかった。

「……っ!!」

 彼女は、リボンを引っ張る怪力の主に対抗して腰をグッと低く落とすが、何度も宙に浮きそうになる。

 トールも加勢して二人で引っ張るが、状況は好転しない。

 子供と大人の綱引きよろしく、二人はズルズルと邪気の塊の足下へと引っ張られる。

 二人は救いを求めて絶叫する。


「「シャルウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!!!」」


 その二人の願いに応えるように、シャルロッテは、魔物の背後から頭上より遙かに高く跳び上がった。

 宙を大きく舞う金髪のツインテール。

 両手を鳥のように広げて、曲げた右膝を高く上げ、左足をまっすぐに伸ばした跳躍のポーズ。

 その露わになった太ももとパンチラだけでも、強力な悩殺武器として通用する。ただし男限定、魔物は不明。


 強化魔法により全身にくまなく纏った黄金の光。

 天蓋に立ちこめる暗雲をバックにした彼女は、まるで後光が差した大天使のようだ。


 彼女は跳び上がる最中に詠唱し、空中で自分の背丈を超える長い杖を生み出した。

 そして、跳躍が頂点に達したところでそれを両手で堅く握りしめ、ブリッジの姿勢を取ってさらに詠唱する。

 注ぎ込まれる魔力によって、杖は黒光りから銀色に輝いた。

 魔力の充填が完了すると同時に、彼女の身体が、空中で頭と足の裏がくっつくくらい弓なりに反り返る。


「いっけええええええええええええええええええええっ!!!」


 彼女は落下しながら絶叫し、魔力を込めた杖を渾身の力で邪気の塊に向けて振り下ろす。

 身体はブリッジの体勢から瞬時に前屈の体勢になり、弾みがついた。

 全身を使って振り下ろされた長い杖が唸り声を上げ、空気を切り裂く。


巨大な(マキシマル)シュペーア!!」


 彼女の発する魔法名で、杖の先から4メートルは優に超える太い光の槍が瞬時に生み出され、彼女の落下の加速度も加わり、一直線に魔物の後頭部の延髄(きゅうしょ)へと向かう。


 刺さる!


 ……はずだった。


 あろうことか、光の槍が放たれる直前に、首に巻き付いたリボンを腕力に物を言わせて外した巨体(ターゲット)が、シャルロッテの気配に気づき、頭を後ろへ向けたのだ。

 そのため、光の槍は巨体の急所をそれ、顎の下をえぐり、ほとばしる鮮血を吸い込みながら地表に地響きを立てて突き刺さる。


 悪夢だ! 最悪だ!!

 作戦失敗である。


 このまま落下すると奴の鼻先にぶつかりそうなシャルロッテは、「あわわわわわっ!」と空中でジタバタする。

 それをマリー=ルイーゼのリボンが救出した。いや、束縛されたとしか見えないが。

「なんで、あたしをこれで捕まえるのよ! このリボン、防御魔法を使っていても、めちゃくちゃ痛いわよっ! あばら骨折れる……」

 空中でリボンに巻かれたまま恩を忘れてジタバタするシャルロッテを、マリー=ルイーゼはゆっくり地表に下ろした。


「ゴメンねぇ。緊急事態だしぃ」

 マリー=ルイーゼは、リボンを優しく外しながら、眉をハの字にして口元を緩める。

 謝りながらもちょっと嬉しい?

 実は、人に巻き付けるのは今回初めてなので、どうなるのか知ってちょっぴり嬉しかったのだ。シャルロッテには内緒だが。


「だったら仕方ないわねぇ」

 シャルロッテのそれは、救われた割には感謝が足りないような返答だ。

 まあ、マリー=ルイーゼの束縛魔法が一種の迷惑行為に近かったのもあるが。


 とその時、トールが右手をいっぱいに伸ばし、彼女達に手のひらを向けて大きく叫んだ。


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