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僕と幼馴染みと黒猫の異世界冒険譚  作者: s_stein
第一章 異世界転生編

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第49話 略奪者の駆け引き

「どういうことだ!?」

 クラウスはジクムントに詰め寄る。


「よう、メビウス? 貴様、まだ千里眼の魔法を使えるか?」

 ジクムントは、メビウスではなく、なぜか少年を見つめたまま旧友のように声をかける。

 それは、獲物を逃さないという目つきだ。

「千里眼? ふう。年取ったからのう。お前さんが知っている昔と違うて、よう見えんくなったわい」

 メビウスは、目をしばしばとさせてから答えた。


「どうりで、のんきにしている訳だ」

「ほう。おぬしは何が見えるという?」


「わしらと貴様らしか見えないとは、おめでたい奴よのう」

「だから、何が見えると聞いておる!」


「ポーレ王国の黒魔法の連中が、出し抜かれた仕返しに来たぞ」

「どこに!?」


「近くに。そろそろ向かってくるはず」

「まさか!?」


「だから、『そうも言っていられん』と言ったではないか!?」

「なるほど」


「で、ここらで共闘作戦といこうではないか? ポーレ王国の奴らに子供らをみすみす渡すのか? 否であろう?」

「当然至極」


「なら話が早い。先にわしらに子供達を引き渡せ。貴様らは魔力に乏しいであろう? 魔力が満タンのわしらが、子供達を守ってやる」

「本当か!? 嘘偽りではないだろうな?」


 トールは、話がまとまりつつある二人の会話に疑問を感じた。

 黒猫ニャン太郎、今はマックスから聞いているのは、三つ首の蛇とオオカミだけのはず。


 彼は、ジクムントから目をそらさず、近くにいる黒猫に声をかけた。

「マックス。キイテイルカイ?」

「マックス? アア オレカ。ナカナカ ナレナイゾ。デ ナンダ?」


「アラタナ テキガ チカクニ キテイル ラシイ。ミライデハ ソウナッテイルノ?」

「アアン? ンナワケ ナイダロ。アト ミエルノハ ヘビダ」


「マジデ!? ダレカ コナイノ」

「ウウム……。コナイコトモ ナイ」


「オイオイ ドッチ ダヨ!? ダレガ クル? ナニガ ミエル?」

「エート マテ。……ミカタダ。エングンガ サカヲ オリテクルゾ。ミエルノハ ソレダケダ」


 トールは、このマックスの未来予知をどうやってエルフ達に知られないようクラウス達の耳に入れようかと考えた。

 しかし、悩むことなく、すぐに解は見つかった。

 シャルロッテが隣にいるではないか。


「シャル。いいかい?」

 トールは、視線をそらさず、シャルロッテへ呼びかける。

「何よ?」

 シャルロッテも、トールの方を向かずに答える。

 二人とも、ジクムントがいきなり魔法を発動するのを警戒しているのだ。


「マックスの話、聞いたよね?」

「ああ、黒猫の? あったり前でしょう! だから、あいつらにこれから言って――」


「ちょ、ちょっと待って! 今は黙っていて。ウシロノ ミンナニ ツタエテ」

「なによ、ニホンゴ マジリデ」


「クロネコノ ハナシヲ。ヤツラニ キヅカレナイヨウニ」

「ナルホドネ。アッタマ イイ♪」


 シャルロッテは、ジクムントの動きを警戒しつつ、後ずさりしながらクラウスに近づき、小声で状況を伝えた。

 ポーレ王国の話はでたらめで、これからヘビが出て、騒ぎを聞きつけた味方が坂を降りて援護に来る、と。


「おいおい、何を密談しているのかね? せっかく教えてやった敵の情報に耳を貸さぬとは失礼極まりないぞ!」

 ジクムントは、不機嫌そうな顔をして、地面を蹴った。

 しかし、フリードマンは、やれやれという表情で主の方をのぞき込み、小声で状況を伝達する。

「お頭?」

「ああん?」


「子供の方は、心の中の言葉が猫語なのでさっぱりわからんですが、今あのじじいの心が読めやしたぜ。お頭の嘘が、全部バレてやがる」

「のわ……っ! 嘘と言うでない! 駆け引きと申せ!」

「へーい」


 ジクムントは、大きな咳払いをして、声を一段と大きくした。

「あー、もうよい!

 このフリードマンは人の心が読めるが、貴様らの中にも、もしやその猫かも知らんが、心を読める奴がおるみたいだな!

 そうよ。ポーレ王国の話はでっち上げよ!

 ま、いずれはそれらの話も現実となって、貴様らの前に立ちふさがるであろう!

 貴様らは、世界中から狙われておるからな!

 不眠不休で大いに用心したまえ!」


 彼はそう言い終えると、右手の人差し指を立てて手首をくるくる回し、小声で詠唱した。

 とその時、メビウス達の背後に輝く魔方陣が現れた。

 ただならぬ気配を感じたメビウス、クラウス、シャルロッテが後ろを振り返ると、10メートルくらいの灰色の煙の塊がもうもうと立ちこめたかと思うと、三つ首の巨大な大蛇(おろち)が現れた。


 シャルロッテは、「いやああああああああああっ!!」と悲鳴を上げ、頭を抱えてしゃがみ込んだ。

 メビウスもクラウスも、ふがいないかな、「わわわっ!」と叫んで同時に腰が抜けた。

 その騒ぎにトールも思わず振り返った。


「ワハハハハハハハハハハ!

 うちの大食漢である使い魔(そやつ)が、また腹を空かせたと申すのでのう。

 なんせ、腹を空かせるとわしの言うことを全く聞かんので、困っておる。

 わしまで飲み込もうとする始末で、手に負えん。

 すまんが、宴の相手をしてほしいのだよ」

 ジクムントもフリードマンも、何が起きても自分のせいではない、という無責任な顔を下げて馬にまたがった。

「では、その少年の言うことに従い、わしらは帰るとしよう。

 さらばじゃ!

 また会おうではないか! 生きておれば、だがな。

 あ、使い魔(そやつ)は、宴がすめば自分で勝手に帰るので、森まで送ってもらわんでもよろしい。

 後は頼んだぞ、宴の幹事殿。

 フハハハハハハハハハハッ!」


 二人は馬の腹を蹴り、高笑いと土埃を残して坂道を駆け上がっていった。


 トールは、真っ赤な顔をして彼らを見送ると、急いで大蛇の方へ振り返った。


 獲物を前に嬉々と踊る三つの鎌首。

 3メートルはあろうかという高さから獲物を見定め、右に左に揺れる金色の蛇眼。

 漆黒の闇の入り口に見える、おぞましい縦長の瞳孔。

 ねっとりする唾液を伴って口先から突き出し、獲物の匂いを味わう二股フォークのように割れた舌。


 時間がない!


 彼は、胸を張って直立の姿勢を取りながら、右手を真横に目一杯伸ばす。

 そして、右手首を90度曲げると、胸一杯に息を吸い込み、グッと腹に力を入れた。


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