第48話 諦めたと見せかける略奪者
フリードマンは、戻ってきた使い魔の首と頭をポンポン叩いた。
ねぎらいを受けた使い魔は、主が地面に作った魔方陣の中に入って光の塊となり、魔方陣とともに消えた。
それを確認したトールは、再度ジクムントへ視線をぶつける。
「さあ、次は、メビウスさんと御者さん達の縄を解くんだ! あのままだと――」
「おっと、何かね? あばら骨が折れるとでも? 死ぬとでも?」
ジクムントの不気味な笑みが復活した。
「そうだよ。だから、早く!」
「フハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!」
ジクムントは、ねじが外れて壊れた人形のようにくねくねとして、笑いが止まらなくなった。
「何笑っているのよ! 死んじゃうじゃない! 早くしなさいよ!」
シャルロッテが必死の表情を見せて、ジクムントに食って掛かる。
「おいおい。心配されているぞ、じいさんよ!」
ジクムントがつま先立ちになり、トールの肩越しに遠くへ向かって呼びかける。
「「「???」」」
トールとシャルロッテとクラウスが、同時に眼をしばしばさせた。
「おい、メビウス! 貴様、いい加減に死んだふりをせんで、自分で縄を解け!」
ジクムントは、まだ腹を抱えている。
「それとも、縛られるのが快感な悪趣味の持ち主かのう? わしの縛り方が気に入って、その格好で気持ちよく寝ていたいのかね!?」
エルフ以外の全員が、縄でぐるぐる巻きになって倒れているメビウスへ、嫌疑に満ちた眼を集めた。
すると突如、縄が白い光に包まれ、光の粒となって空気中に消えると、白髪頭に右手を突っ込んで恥ずかしそうな顔をするメビウスが上体を起こした。
「「「はいいいいいいいいいいっ!?」」」
心配していた全員がハモって、狐につままれたような顔をする中、メビウスが顔をクシャクシャにして詫びを入れた。
「すまんすまん。奴の縄なんか、わしの防御魔法があれば、痛くもかゆくもないのだが、おかげで自分の防御しかできなくて、ジッとしていたのだよ」
「「「メビウスさん!!!!」」」
「決して逃げたわけではなく、縄から身を守るのが精一杯で、動けなかった。面目ない」
「じゃ、あっちはどうなった!?」
クラウスは、声を荒げた。あっちとは、御者達のことだ。
ジクムントは、右手を握って親指を立て、それをクイクイッと右に動かしながら、口をへの字にして語る。
「少し前に解いたさ。そうしたら、貴様らの仲間に優秀なヒーラーがおるらしいのう。二人して、今、せっせと看病しておるぞ」
クラウスは、自分の位置から見るとちょうど御者達が馬車の陰になっているので、2台の馬車の間まで走って行って、そこから様子を窺った。
遠くの方で、銀色のショートヘアの女の子が草むらにしゃがみ込んでいて、その近くで緑色の強い光を発しているのが見える。
また、少し離れたところでは、すでに一人の御者が上体を起こし、そばにオレンジ色の長髪の女の子がしゃがんでなにやら介抱をしていた。
クラウスは深い安堵の表情を見せて、元の位置に戻った。
「それにしても、あの銀髪の少女。相当なヒーラーよのう。短時間で骨折まで治してしまうとは。優秀な生徒をお持ちで、さぞ鼻が高いのう、クラウス先生?」
ジクムントは、皮肉っぽい表情を見せつけた。
「これでわかったと思うが、貴様らの負けだな! では、お引き取り願おうか!?」
クラウスは、ニタリと笑って、エルフ達に引導を渡した。
でも、ジクムントは両肩をすぼめて両腕を肩の辺りに持ち上げた。
「だから、そうも言っていられん、と言ったろうが?」
彼は、方眉をつり上げて、唇を堅くつぼめた。




