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僕と幼馴染みと黒猫の異世界冒険譚  作者: s_stein
第一章 異世界転生編

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第39話 名前決めと魔法試運転

 クラウスがトール達に魔法を教えていた頃、メビウスは、目の前の二人の少女に今更ながら名前をつけていなかったことに気づいた。

 すっかり、精霊達のペースに振り回されて、こちらの二人には何もしてあげなかったことが不憫に思えてきた。


「そういえば、お前さん達の名前を決めていなかったねぇ」

「私はナナセでいいです」

「私はアオイで」


 メビウスはかぶりを横に振り、眉をしかめる表情を見せる。

「いやいや、ローテンシュタイン帝国では、そういう名前はなじまないから、駄目だ。何か好きな名前はないのかね?」

 名前をつけるかと思いきや、好きな名前を聞いているお粗末ぶり。

 彼は、精霊に駄目出しされたため自信をなくしており、名付け親を放棄したのだ。


 ナナセもアオイも、一任というより投げ出されたも同然では、お互いに顔を見合わせるだけである。

「そう言われても、こちらの世界のことはよくわかりません。どういう名前がいいのでしょう?」

「候補をくれれば考える」


 メビウスは、先頭の馬車を選ばなかったことに今更ながら後悔していた。


(クラウスでも名付けは難しいと思うが、わしよりまだましだったはず)


 一生ものの名前をつけるのだから、責任は重い。

 なんとか、逃げたい。


 そこで、彼は責任逃れをするよいアイデアを思いついた。

「では、いくつか思いついた名前を適当に挙げるから、好きなのを選びなさい。いいかね? ……マリーゴルト、マリアンヌ、マリリン、マリー」

 メビウスは、同じ響きの言葉が続いたな、と思ったので少し方向転換した。

「ルイーゼ、ルル、ルート」


 ここでナナセが挙手をする。

「私、マリーかルイーゼがいい」

「そうか。でも、2つともありふれているから、少ない名前がいいだろう。マリー=ルイーゼでどうかね」

「はい」


「では、お前さんは、……ヒルデ、ヒルデグント、ヒルデガルト――」

「ヒルデガルトで」

 アオイは、彼女らしくぼそっと答えた。

 メビウスは、彼女らが早々に名前を決めて打ち止めしてくれたのでホッとした。

 なぜなら、彼は知り合いの女性の名前しか知らず、簡単に尽きてしまうところだったのだ。


「では、お前さん達がどの程度魔法が使えるか調べてみよう」

 ここで、アオイ、今はヒルデガルトが口を挟んだ。

「外で精霊さんが魔法について説明していたのが聞こえたけど、あの通りにやればいいの?」

 メビウスは、ヒルデガルトの耳が鋭いのを感心しつつ、「ああ、そうだよ」と答える。


「じゃ、手のひらから水が出せるか試してみよう」

 メビウスの提案には、明確な意図があった。

 ゾフィーがクラウスに言っていた言葉を思い出したからだ。

 『ヒルデガルトは水の精霊に当たれ』と。


 試しにやってみると、ヒルデガルトはいとも簡単に、右手から野球ボールくらいの大きさの水の塊を出現させた。

 それはまるで、ヨーヨーのように、フワフワと上下に揺れた。

 マリー=ルイーゼは、まったく駄目だった。

 ヒルデガルトが魔法のコツを教えても変わりはない。


「じゃ、今度は指先から炎が出せるか試してみよう」

 この試みも、マリー=ルイーゼは『火の精霊に当たれ』というゾフィーの言葉から来ている。

 案の定、マリー=ルイーゼは、右手の5本の指先からライターのガスを最大限に放出したような大きな炎が出せた。

 ヒルデガルトは、予想通り、炎どころか煙すら出せない。

 今度は、マリー=ルイーゼが魔法のコツを教えても、ヒルデガルトの指先はプスッとも音がしなかった。


 つまり、彼女達には、すでに魔法の属性が決まっていたのだ。

 それを見抜くとは、さすが、大地の精霊である。


「この炎って熱いのかな?」

 マリー=ルイーゼが、自分の左手を炎にかざしたが、別に熱くないという顔をする。

「自分は熱くないさ。熱かったら、そうやって出せないだろ? しかし、他人は熱いものだよ」

 メビウスは、冗談のつもりでマリー=ルイーゼの炎に右手をかざした。


「うわっ! 熱っ!」

 調子に乗りすぎたメビウスは、彼女の炎の上に手を置いた滞空時間が長すぎたため、火傷を負ってしまった。

「大丈夫ですか!?」

 マリー=ルイーゼは魔法の炎を消し、彼の引っ込めた右手を慌ててのぞき込む。

「大丈夫、と言いたいところだが、結構熱かったわい」

 メビウスの顔は歪み、右の手のひらを彼女に差し出すも、それが少しずつ赤くなってきた。


 ヒルデガルトは少し考えたが、「試させて」と言ってメビウスの右手を左手でつかんだ。

 メビウスは、彼女が水でも出して冷やしてくれるのかと思ったが、さにあらず、彼女は右手を彼の赤くなった手のひらにかざした。


 この構えは、ヒーラーの治療の構えである。

 教えてもいないのに、この格好ができるとは、メビウスも驚いた。


 すると、彼女がかざした右手は、緑色の光を帯び、メビウスの右手をその光で包み込む。

 そして、みるみるうちに赤みがなくなり、メビウスも痛みがなくなった。

 治癒魔法の一種だ。


「お前さん、もしかして、ヒーラーの素質があるのかのう」

 メビウスは、すっかり礼を忘れて、彼女の能力に目を丸くする。

「水で冷やすと、水浸しになるから、とっさに考えてみた。何かのアニメでこうやって治療するのを見たことがあるの」

 ヒルデガルトは、自分の新しい能力の発見にもかかわらず、あくまで落ち着き払っていた。

 メビウスは、アニメの意味がわからなかったが、何か物語の挿絵でも見て覚えていたのだろうと想像した。


 とその時、メビウスの背筋に悪寒が走った。

 『厄災』の接近を感じ取ったのである。

 彼は、彼女達を驚かせないよう、小声で「ついに来たな」とつぶやき、治療の終わった右手の拳を握りしめた。


   ◆◆◆


「見つけたぞ!」

 馬上の髭の男は、遠くに芥子粒のような馬車を発見して叫んだ。

 追う側も追われる側も、ともに全力で駆け抜けていたのだが、追う側のスピードがわずかに速く、追われる側はついに相手から目視されるまで距離を詰められたのだ。


 馬車の進む道は、高い丘に続いていた。

 それまでたまにアップダウンがあったのだが、今度は勾配がきつくて長い上り坂が、難所のように迫っている。


「お頭! あの坂ではスピードが落ちるから、追いつくチャンスですぜ!」

 髭の男と並んだスキンヘッドの男が、馬の蹄の音で声がかき消されないよう声高に叫ぶ。


「あの高い丘を抜けると、集落だ! 町も近い! 人目のない場所で決着をつけるぞ! 急げ!」

「へい!」


 二人は、今まで使っていなかった鞭を取り出して、しきりに馬の尻に振り下ろす。

 こんなことをしたら、馬はもたないのだが、一向にお構いなしの様子だ。


 なぜなら彼らは、この馬を乗りつぶして、相手の馬車を乗っ取るつもりでいたからだ。

 そうとは知らない馬は、(あるじ)の期待に添うべく最後の力を振り絞って馬車を猛追した。


 邪気の塊となった2つの疾風が、2台の馬車にぐいぐい迫る。

 一方、追われる側の馬車の馬は、ここにきて急に疲れを見せて、みるみるうちに速力が衰えた。

 長時間駆け抜けたので、体力の限界か。

 それとも、眼前に勾配のきつい長い坂が迫ってきたので、諦めたのか。


 こうなると、追っ手はぐんぐん距離を詰めていく。


 いよいよ、年貢の納め時なのか?


 黒猫が予知した戦いが、ついに始まろうとしていた。


   ◆◆◆


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