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僕と幼馴染みと黒猫の異世界冒険譚  作者: s_stein
第一章 異世界転生編

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第38話 黒猫の秘密

 クラウスの横にいた黒猫は、手を舐めて、その手で顔を拭いていた。

 いわゆる、猫が顔を洗う、というやつである。

 微笑ましい光景であるが、実は、それは黒猫の演技だったのだ。


 本当は、黒猫はそれまでジッとトール達の動きを観察していた。

 魔法の発動。魔法の習得。

 言葉はわからないが、仕草でわかる。


 それらを子細に観察し、何かを考えていたのだが、クラウスの視線が自分に向けられることに気づき、とっさに顔を洗う仕草でごまかした。

 そうとは知らないトール達は、のんびりと顔を拭く、可愛い仕草の子猫にしか見えていなかったのである。


「いいかい? 驚かないでね。僕はあの黒猫が、寝ている君に話しかけているところを見てしまったのだよ」

「えっ! 本当ですか!?」

「本当だよ」


「ニャーじゃなくて!?」

「ニャーじゃなくて」


 トールは、クラウスがここで息抜きがてら冗談を言っていると思った。

「猫が人の言葉をしゃべるなんてあり得ないよ」

「嘘だと思ったら話しかけてごらん。きっと、しゃべるから」


「いや、だから――」

「僕は、その猫の言葉がわからない。もしかして、君達が前世でしゃべっていた言葉で会話ができる猫じゃないかな?」


「うっそ! そんなぁ! 冗談でしょう!?」

 今度はシャルロッテが、驚きの声を上げた。

「しゃべったのは嘘じゃないよ。君達の前世の言葉というのは当てずっぽうだけどね。実際はどこの国の言葉なのか、僕にはわからない」


 シャルロッテが黒猫に手招きして「おいで」と優しく声をかけた。

 黒猫は手招きにつられて「ニャー」と鳴いてシャルロッテの膝の上へ跳び乗った。


「子猫ちゃん? 言葉をしゃべるんでしゅって!?」

 シャルロッテは、黒猫の鼻の頭に人差し指をちょんと触れて、顔を覗きながら声をかけた。

「ニャー」

「ほんとでしゅかー? しゃべれるんでしゅかー?」

「ニャー」

「先生! ニャーしかしゃべらないんですけど!」


 ここで、トールが何かアイデアを思いついたらしく、急に明るい顔になった。

「カリン……じゃなかった、シャルロッテ。うーん、言いにくいからシャルでいいかな?」

「ハヤ……、いや、トールなら許す」

「シャル。僕にその猫を貸して」

「仕方ないわねぇ。いいわよ。……子猫ちゃん? こわーい、お兄しゃんでしゅよー。爪でひっかいていいでしゅよー」

 シャルロッテが、両手で黒猫を持ち上げて、よいしょとトールの膝の上へ移動した。


 トールは膝の上に置かれた黒猫の顔を正面に向けた。

 とその時、彼は「うわあっ!」と叫んで、危うく黒猫を放り投げそうになった。

「ど、ど、どうしたの!?」

 彼のあまりの慌てぶりに、シャルロッテまで飛び上がらんばかりに驚いた。


「瞳の色が変わった!」

「ええええええええええっ!!」


 二人が驚くのも無理はない。

 さっきまで黒猫の目の色は、銅のような茶色だったのだが、トールの膝に乗せられてから、右目がターコイズブルーのように緑がかった青、左目が金色になったのである。


 クラウスが「どれどれ」と言うので、トールは黒猫を抱きかかえて、右手で顔だけをクラウスの方へ向けた。

 黒猫はクラウスに向けた視線をすぐに切ったが、クラウスははっきりと色を確認していた。

「うーん。やっぱりね。その黒猫、実は、強い魔力を持っているんだ。君達、防御魔法をまだ身に纏った状態だよね? その魔法に反応して、自分の魔力が増幅されたのじゃないかな?」

 トール達は自分の薄い紫に光る手足を見て、謝りながら魔法を解除した。

 そうすれば黒猫の虹彩の色が銅の色に戻るかと思ったが、色は変わったままだ。


「そうか。戻らないのか。まあいいや。ちょっと、どんな魔法が使えるか、その猫に聞いてみてくれるかな? ついでに名前もね」

 クラウスに促されて、トールは黒猫に挨拶する。

 ただし、日本語で。


「コンニチハ」

「オウ。ヤット コエヲ カケテクレタカ。オマエラノ コトバハ サッパリ ワカランカッタ」

 黒猫は、体に似合わず、おっさんのような言葉遣いだった。

 ただ、声質は、声帯が小さいからか、ちょっと高く感じる。


 クラウスは嫌疑が晴れて、「ほら、やっぱり。しゃべる猫だ」とニコニコ顔をシャルロッテに向ける。


「ナマエハ?」

「ニャンタロウ ダ」


 トールは、黒猫の名前をクラウスに伝達する。

「名前は、ニャンタロウだそうです」

「変な名前だな。ローテンシュタイン風にしよう。魔女(ヘクセ)じゃ直接すぎるか。そういう名前をつける人たちも多いけれどね」

「ニャンタロウという名前だから、雄です」

「じゃ、フェリックスか、マックスか」

「マックスにしましょう」

「ああ。そう伝えて」

 クラウスは、親指を立てた。


「ニャンタロウ ヨロシク。ボクハ トール。トナリハ シャルロッテ」

「ケッタイナ ナマエダナ」


「コチラノ セカイデ ニャンタロウハ マックス トイウ ナマエニ ナッタヨ」

「ナンダ アダナカ。マア イイ。スキニ シロ」


「マホウヲ ツカエルノ?」

「ソンナコトヨリ ココカラ ズラカロウ」


「ナゼ?」

「マズイコトガ オコル」


「ホント!?」

「オウヨ。オレハ イマ スコシサキノ ミライガ ミエルヨウニ ナッタ」


「ドンナ ミライ?」

「フタリグミガ クル。チョー ヤバイ マホウヲ ツカウ。ミツクビノヘビト オオカミヲ ツレテイル」


 トールは、頭の血がサーッと音を立てて下に降りていく感じがした。

 もちろん、シャルロッテも日本語がわかるので、彼女の顔色もみるみるうちに変わっていった。

 初めはニコニコにしながら彼らと猫との会話を観察していたクラウスも、トール達が青ざめて、だんだん険しい表情になるのを見逃さなかった。


「なんて言っている!?」

 クラウスは身を乗り出し、彼らに迫った。

「クラウスさん。この猫、マックスは今、未来が見えるようになったそうです。ヤバい魔法を使う二人組がこちらに近づいてきているそうで、三つの首の蛇とオオカミをつれているようです」


「なんだって!? 三つの首の蛇!? それって、もしや、グリューネヴァルトの『闇のエルフ』達の使い魔!?」


 グリューネヴァルト。

 それは、ローテンシュタイン帝国南東にあり、隣国のスカルバンティーア大公国にもまたがる広大な森。

 別名シュヴァルツヴァルト。黒い森。

 エルフ族が住んでいる、鬱蒼とした森林地帯である。


 多くの動物が生息し、エルフ達も共存して暮らしている一見すると平和な森だが、そこに根城を置いている悪の集団がいる。

 人々は、彼らを『闇のエルフ』と恐れていた。

 ただし、その言葉を彼らの前で口にすることは、タブー視されている。

 なぜなら、彼らを侮辱したことになり、死ぬより恐ろしい報復を受けるからである。


「これはまずい! 精霊の言う『厄災』とは奴らのことか! 今ここで渡り合うのは危険だ! 早く高い丘を超えて町に入らないと!」

 クラウスは、狼狽し、絶体絶命の気分になった。

 なぜなら、彼は闇のエルフに殺された知り合いを何人も知っている。

 さらに、討伐隊が何度も掃討作戦を試み、そのたびに失敗している。


 だから、今の状況で、泰然自若として少しも騒がないことができるなら、世界の終わりを目の当たりにしても平然としていられる人物だ。

 従って、全身がガクガク震え、目が泳ぐクラウスを責めることはできない。


 ちょうどその頃、しんがりの馬車では、メビウスによる即席の魔法の講義が行われていた。


   ◆◆◆


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