第361話 トールの捨て身の攻撃
魔王は、右手を彼女の方へ突き出した。
その刹那、肉に硬い物が突き刺さる音。
魔王は目を見開き、ビクリとする。背中に何かが突き刺さったのだ。
「させるか!」
叫び声を後ろから浴びた魔王は、首だけゆっくり右に回して後ろを振り返った。
そこには、鬼のような形相のトール。左手には、エクスカリバー。背中を突き刺しているのは、それだ。
「あいにくだな。さっき、女が剣を突き刺してどうなったか見ただろう? この体は、そんな物は通用せんのだ」
そう言って彼は力むと、トールが体重をかけて押しているにもかかわらず、エクスカリバーが体から押し出された。またしても、傷口がみるみるうちに塞がっていく。
不敵な面構えの魔王は、回れ右をすると、トールに向かって胸を張った。左胸の勲章が、いらつくほど自慢たらしい音を立てる。
「どうだ、思い知ったか。剣を突き刺しても、無駄だということを」
「無駄ではない!」
再び、エクスカリバーが力強く突き出され、魔王の左胸に深く食い込んだ。
「頭の悪い奴だ。何度やっても同じ」
「いや、違う。この剣は、刺すだけではない」
「何?」
「教えてやろう。こういうこともできるってことを。爆破!!」
彼が魔法名を力強く叫ぶと、魔王の左胸の傷口から、強烈な光が発せられた。
まさかの事態に驚愕する魔王は、瞬時に光の玉に飲み込まれる。それは、真正面のトールをも容赦しない。
轟音を発しながら、光は巨大な玉に膨れ上がった。
周囲に強烈な爆風が広がり、転がっていた肉塊や瓦礫が高速に宙を飛ぶ。
穴の縁にぶら下がりながら爆風に必死に耐えるヴィヴィエンヌを、土砂が間断なく襲う。
体が斜めになるほどの風圧と土砂の圧力。彼女は歯を食いしばり、固い地面へ指先を突き立てた。
轟音がこだまする中、風が収まると、彼女は急いで穴の縁から這い上がった。
トールと魔王が立っていた地面は、爆発のため、大きく抉られていた。
周囲を見ても、姿が見えない。
二人は、もしかして粉々に吹き飛んだのかも知れない。
「トール!! トール!! トール!!」
まだ粉塵が漂う空間に、呼びかけの声がむなしく響く。
答える者はいない。
彼女の視界は、溢れる涙で、たちまち滲む。
そして、両膝を折り、両手を地面に突いて嗚咽した。
「トール……、生きていて……、お願いだから……」




