表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕と幼馴染みと黒猫の異世界冒険譚  作者: s_stein
第四章 魔界騒乱編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

355/369

第355話 調理場の闖入者

 トールは、体で5回壁をぶち抜いた気がした。

 防御魔法で体を守っていなければ、ぶち抜くどころか、魔力で体がぺちゃんこに押しつぶされていただろう。それほど、強大な魔力だった。

 最後に壁ではない何かに背中をぶつけて落下し、尻餅をついたとき、上から陶磁器のようなものが降ってきて、床で派手に割れる音がした。

「今日は、なんて日だい! 二人目も飛び込んできて!」

 次は、老婆の叱り飛ばす声が降ってきた。

 トールは恐る恐る目を開けると、すぐそばにエプロンを着用した豚顔の獣人が立っている。

 腰に手を当てて、相当おかんむりのようだ。

「お腹がすいたからって、この調理場に壁をぶち抜いて入ってくるんじゃないの!」

 彼女は、左手を真横に伸ばして指を差した。

「食堂は隣! さあ、行った行った!」

「おばさん。今、二人って言ったよね?」


「ああ、言ったさ」

「もう一人は、どこにいる?」

 彼女は、今度は左手を右に伸ばして指さす。

「そっちにいるよ。連れて行っておくれ」

 トールは、気を失って倒れているヴィヴィエンヌを発見し、急いで介抱する。

 2本のサーベルは、体が飛ばされたときに手から離れたらしく、彼女の手には握られていなかった。

 揺すってみても、なかなか目を開けない。頬を叩いても駄目だ。

 とその時、足音が近づいてきた。

「おい。ここに闖入者がいなかったか?」

 その声は、少年の低い声。

「これはこれは、グスタフ様。今日は何用で?」

 豚顔の獣人にグスタフと呼ばれた以上、魔王に間違いない。


「壁をぶち破って入ってきた二人がいるだろう?」

「ええ。そこにいます」

 トールは、体が飛ばされても握っていたエクスカリバーを、急いで左手に納めた。

 なぜなら、魔王グスタフに取り上げられることを恐れたのである。

 ヴィヴィエンヌもサーベルを持っていない。だから、飛ばされた勢いで手元から離れたと説明しても、さしておかしくはないだろう、という腹づもりだった。

 それから彼は、スクッと立ち上がり、お得意の雷撃魔法の構えを取った。かめはめ波ならぬ、大バッ波の構えである。

 二人の距離は、10メートルほど。

 これから何が起こるかを察知した豚顔の獣人は、頭を抱え、悲鳴を上げながら調理場を出て行った。

「何の真似だ?」

「魔王グスタフ。貴様を倒す」


「ほう。雑魚でも魔法が使えるのか。だが、調理場がめちゃめちゃになってしまう。その構えをやめろ」

「断る」


「いやとは言わせない。これならどうだ?」

 グスタフが右手の指を鳴らすと、まだ意識を失ったままのヴィヴィエンヌが宙に浮いた。

 フワフワ浮いているところへ、空中から麻縄が現れ、たちまち彼女を後ろ手に縛り上げる。

 今度は、彼女の首の周りに何本もの短剣が現れ、一斉に刃先を首へ向けた。

「おっと、動くなよ。貴様が動いたら、もう一度指を鳴らす。すると、全ての短剣が女の喉に突き刺さるからな。さあ、その構えをやめろ」

 トールは、相手が魔王とは言え、少年が大人の声を出して脅しをかけていることに対して、無性に腹が立った。

 だが、指を鳴らす前に雷撃魔法を繰り出す自信がないので、苦々しい顔をしながら首を縦に振る。


「よしよし。こういうときに女がいると便利だな」

 グスタフは、また薄気味悪い笑いを浮かべて、指を鳴らした。

 トールはハッとしたが、短剣は煙のように消え、今度は自分が何かでぐるぐる巻きになったのを感じた。

 巻き付いたのは、黒光りする太い鎖だった。

「貴様! 卑怯だぞ!」

「こうなるのは、初めから予想していただろう? 間抜けめ。この女は火刑台に送ってやる。魔女には火あぶりがお似合いだからな」


「やめろ!」

「女を助けたいか? なら、貴様を火刑台に送ってやる。それでよいな?」


「それでいい!」

「おっと、潔いお言葉、いただきましたー。でも、それじゃつまらない。(いにしえ)から伝わるやり方で行こう」


「それは、どんなやり方だ?」

「女の火刑台に火が付くと同時に、魔物と戦ってもらう。最後に、このグスタフと1対1の勝負だ。見事勝利すると、女を救出できる。もたもたしていると、たとえ勝利しても女は死ぬ。どうだ、スリルがあるだろう。王都の連中には、よい見世物になる」


「貴様あああああ!!」

「さあ、会場へ行くぞ」


 とその時、トールは漆黒の闇の中に放り込まれた。

 音がない。風も感じない。上下もわからない。

 彼は、星のない宇宙空間を想像していると、急に目の前に灰色の空が現れた。

 万有引力を感じる。

 背中がワンバウンドする。

 2回転ちょっと転がって、横向きになって止まる。

 その時、土の色を見た気がした。

 彼は、背中と腰の痛みを堪えつつ、頭を上げる。

 目の前を、ヒューッと土埃が通り過ぎた。

 周囲を見渡してみる。

 見覚えのある光景。しかも、それは歴史の教科書で。

 彼は、思わず、教科書で覚えた単語を口にした。


「ここって、円形闘技場(コロッセウム)のど真ん中だ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
cont_access.php?citi_cont_id=229234444&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ