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僕と幼馴染みと黒猫の異世界冒険譚  作者: s_stein
第四章 魔界騒乱編

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352/369

第352話 憧れの彼女

「ヴィヴィエンヌ! ヴィヴィエンヌ!」

 トールは、体一つ分先に倒れている彼女へ、懸命に声をかけた。

 こんなところに増援の親衛隊が駆けつけたら、と気が気でない。

 すると、彼女は顔を下に向けたまま、右手をトールの方へ向けた。

 大丈夫という意味だろうと思っていた彼は、突然、両手両足と首を締め付けていた見えない枷が外れ、ストンと落下した。

「うわわわわわっ!」

 手足をジタバタさせた彼は、真下に現れた三角形と円の輝く魔方陣がクッションになり、弾むように着地した。

 駆け寄る彼は、彼女を抱き起こす。

「ヴィヴィエンヌ!」

「……大丈夫よ。でも、ティルダの短剣は、かすり傷でも傷口を広げる魔力が込められていたみたいで、ちょっと想定外に痛いの」

 腰に手を当てる彼女の右手は、緑色の柔らかい光を発している。

 治癒魔法で、傷口を治療中だった。


 トールは、天井に突き刺さったエクスカリバーの柄に飛びつき、体を揺らしながら引き抜いた。

 そして、増援の足音が聞こえないか、耳を澄ます。

 慎重に廊下の角を曲がり、敵が潜んでいないか確認する。

 少し先を行って、曲がり角からソッと顔を出す。

 そこには静寂が支配していて、空気すら動いていなかった。

 彼は来た道を引き返すと、サーベルをだらんと下げたヴィヴィエンヌが、ヨロヨロと近づいてきた。

「急がないと」

「まだ立っちゃ駄目。足がふらついている」


「いいえ。魔王の魔力が、こっちに向かって移動しているの。……あら? 止まったわ」

「どこに?」


「割と近いわ。行きましょう」

「その体じゃ――」


「心配してくれてありがとう。もう、大丈夫。チクッとする痛みが残っているだけ」

「こんな時に悪いけど、聞いていい?」


「何を?」

「顔を変えているの?」


「ああ。そのことね。ティルダの素顔を見る? 今行くと、見えるわよ。そろそろ魔力が解けているはず」

「そっちは遠慮しておく。ヴィヴィエンヌの素顔に似ているなら見たいけど」


「ふふっ。私は、あんなしわくちゃ婆さんじゃないわよ」

「ヴィヴィエンヌの素顔が知りたい」


「そうなの? 実はね……」

「(ゴクリ)……」


「今より、もっと若いの♪」

「えっ!?」


「あなたの幼馴染みの誰かに、ちょっと似ているかも」

「えええっ!?」


「結婚してくれるなら、見せてもいいわよ」

「け、結婚なんて……。と、とりあえず、急ごう」


 耳まで赤くなったトールは、頭の上から湯気が出る気分になった。

 そして、ドキドキしながら、ヴィヴィエンヌの後ろを付いていく。


 彼女は、近くに魔王がいるという。

 しかし、それを感じない彼は、もどかしさに歯ぎしりする。

 本当は、先頭になって「俺に付いてこい」みたいな一言でも口にしてみたい。

 いつも彼の後ろに付いてくる幼馴染みの姿を、彼女にも求めているのだ。

 だが、現実はこれだ。彼女の後ろに張り付いている。

 エクスカリバーしか振り回せない自分が、だんだん情けなくなってきた。

 こんな未来兵器みたいな剣があれば、敵の大軍を前にしても、勝てて当然。

 実は、誰にでも使えるのではないか。

 そうなれば、自分の存在価値がなくなる。


 ヴィヴィエンヌみたいになりたい。

 剣で彼女を越えたい。

 今、達人の背中を見ていると、自分もああなりたいという思いが強くなる。

 そうだ、今度、剣術を教えてもらおう。

 そして、めきめき上達。

 ついに、彼女を越える。

 エクスカリバーで一度に敵を倒す。

 囲まれたら、サーベルで敵をバッタバッタとなぎ倒す。

 これで怖いものなし。

 そして、彼女に告白される。

 彼女の素顔を見て、ときめいて……、け、け、結婚。

 そうだ。フランク帝国に大金を預けていた。

 それを元手に家を建てて、子供ができて……。


「楽しそうね♪」

「わわっ!」

 急に振り返ったヴィヴィエンヌの笑顔に、トールはどぎまぎした。

 膨らんだ妄想を、全て読まれたかも知れない。

 茹で蛸のように赤面した彼は、右手を胸に当て、高まる鼓動を感じていた。

 こめかみまでドキドキしつつ、再び彼女の背中を見ながら歩いていった。


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