第345話 オスカルの逆襲
「トール様! 私が道案内をします! 同じ作りの王都なら、道は同じはずです!」
トールの乗る馬の左横にピタリと馬をつけたウサギ顔の騎兵が、声を掛けた。
「防御結界は任せて!」
今度は、右横にピタリと馬をつけたヴィヴィエンヌが、声を掛けた。
「二人とも頼む!」
ウサギ顔の騎兵は、トールの馬の前に移動し、集団の先導役となった。
ヴィヴィエンヌは、右手を挙げて、百二騎の騎兵集団全員を包み込む結界を張った。
軽騎兵中隊は、扉が外れた四角い穴をくぐり抜け、石畳の道を驀進した。
眼前に見覚えのある光景が広がる。
角を曲がる度に、確かにここを通った、と記憶が鮮やかに蘇る。
次はこっちだろうと思うと、それが当たりで、気分がスカッとする。
決定的に違うのは、兵士達が視界に入ってくることだ。
彼らは、ある者は弓を引き、ある者は勇敢にも剣を振り上げ突進してくる。
しかし、ヴィヴィエンヌの防御結界が全てを弾き飛ばす。
矢は折れ曲がり、兵士と剣は放物線を描いて地面へ叩きつけられた。
ついに、魔王の宮殿前の広場にたどり着いた。
幅100メートル、奥行き40メートルの広さも、石の敷き詰め方も全く変わらず。
白く輝いている丸い物が3つある魔王の宮殿、それを取り囲む高さ10メートル、幅100メートルの壁。何もかもがそっくりだ。
誰もが、広場を埋め尽くすほどの獣人の群れ、あるいは巨人の群れを覚悟した。
ところが、そこには誰もいない。
騎兵全員が広場に散開し、周囲を見渡す。
あれほど、道路に出没していた兵士がいないということは、必要ないということだ。
何か、とてつもないものが来る。
彼らは、警戒をMAXにした。
すると、壁の中央付近から、ロング丈の暖簾をくぐるような格好で、スーッと一人の人物が現れた。
壁抜けしたのは、燕尾服を着た小柄な老人。
トールは、馬上で腰が浮くほど吃驚仰天する。
オスカルだ。
トールは、エクスカリバーを持つ左手で手綱も握り、右の手のひらでオスカルの姿を隠した。
「奴の目を見るな! 金縛りになるぞ!」
彼の言葉に仲間全員が、目を閉じるか、手のひらでオスカルの姿を隠した。
「ハハハ! 愉快愉快! これこそ手も足も出ない、というやつだ! ハハハハハハ!」
カラカラと笑うオスカルの声がトールの方へ近づいてくる。
「しかし、戦うために変身すると、この魔法が使えない。この姿で手口がバレているから、使えないも同然。仕方あるまい……。変身するか」
オスカルが言い終わると同時に、トールの手のひらの向こうで、目映い光が見えた。
とその時、トールの手のひらの上から、一つ目の顔が現れた。
一つ目の巨人に変身したのである。
背丈は、3メートルほど。以前の巨人を越えている。
「私に任せて! 魔力は温存して!」
ヴィヴィエンヌは馬を飛び降り、サーベルを握りながら、猛然と巨人へ突進した。
それが合図であったのか、広場の周囲で、ワーッと鬨の声が上がった。
無数の獣人の兵士が、建物の後ろや小道から、剣や斧を持って溢れ出てくる。
「トール様とヴィヴィエンヌをお守りしろ!」「奴らを蹴散らせ!」「一歩も近づけるな!」
騎兵は口々に叫び、サーベルを振り上げて、敵に襲いかかった。




