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僕と幼馴染みと黒猫の異世界冒険譚  作者: s_stein
第四章 魔界騒乱編

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第342話 第2段階のエクスカリバーの威力

 トールは最初、剣圧で一気に全ての象を斬ることを考えた。

 ところが、ローテンシュタイン帝国が建国されるよりも遙か昔の戦闘で、象の突進をやり過ごしたという話を思い出した。

 それは、あの帝国魔法学校の歴史学講師マティス・シュネルバッハ、通称ゴボウ先生の退屈な授業の中で、珍しく印象的な話だった。

 象は、加速が付いたら急には止まれない。ただひたすら、突進する。そいつらに踏み潰されるのを待つことはない。ひらりと避けて、後ろから攻撃すればいいのだと。

 この先人が行ったシンプルかつエコな作戦を試してみたい。彼の心がくすぐられた。


 トールは立ち止まって後ろを振り向き、騎兵達に大声で叫ぶ。

「二手に分かれて広がれ! 真ん中に象を通せ!」

 それを聞いた騎兵達は、瞬時に意図を理解し、素速く行動した。

 散開していた集団が、カーテンでも開けるかのように左右へ広がり、中央に太い道を作る。

 ヴィヴィエンヌは、トールの馬の手綱も一緒に引いて、右へ退避した。


 それを確認した彼は、丘の上から下り始めた灰色の巨象達の壁へ向き直る。

 距離は40メートル。

 もう少し引きつける……。

 巨象達は、なだらかな斜面とは言え、岩が転がるように加速が付いた。

 もう少し……。

 突き出された鼻が、鋭い牙が、眼前に迫る。

 今だ!

 彼は、垂直跳びの要領でジャンプした。

 膝を曲げたまま跳躍するトールに、象の頭が迫る。

 足を伸ばせば届くくらい、すれすれに。

 頂点に達した彼の真下で、そいつは雪煙を巻き上げ、大地を揺らしながらすり抜けた。

 そして、万有引力により落下する彼は、通過する象の尻を(かかと)がかすめる。

 しかし、バランスは崩れず、華麗に着地。魔力で身体能力が強化されているから、楽勝な跳躍だ。


 それから、足を広げて中腰になる。後ろを振り返らない。

 地鳴りのような音を立てながら坂を駆け下り始めた獣人の歩兵達を睨み付ける。

 先頭は、横一列で百人以上。後ろは、その横列が幾重にも。隙間がないほどだ。

 さらに、次々と頭が湧いてきた。皆、剣や斧を振り上げている。

 こいつらも、もう少し引きつける……。

 一撃で片をつけてやる!

 雪崩のように押し寄せる大軍に、たじろぐ素振りも見せないトールは、思いっきり気合いを入れた。


「はああああああああああああああああああああっ!!」


 彼は、左横のエクスカリバーを中央に。

 両手で握り直して、右横に。

 柄を力強く握って、右後ろへ大きく振りかぶり、刀身は水平に。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」


 彼は、渾身の力を振り絞り、エクスカリバーが円弧を描くように、左横へ力強く振った。

 瞬時に大きく描かれた、扇状に輝く軌跡。

 剣先から発せられる、今までとは数段上の凄まじい剣圧。

 水平方向に伝搬する衝撃波が、巨大で鋭利な刃となり、前列の兵士達を右から順に切り裂く。

「「「「――っ!!」」」」

 真っ二つに割れる鎧。吹き上がる鮮血。宙を浮く上半身。

 衝撃波の剣は、勢いが衰えることなく、その後ろにいる者をも次々と襲う。

 坂の上で顔を出した者までも、容赦はしない。

 崩れるように落下する上半身、腕、下半身、頭が坂を転がる。

 一瞬で斃れる数百の兵士達。

 たちまち、雪が積もった斜面は鮮血に染まり、切断された屍の山が築かれた。

 そこへ、後続の兵士達が、丘の上から次々と頭を出す。

 奴らは斜面に広がる惨劇を見て、つんのめるように立ち止まり、口々にわめきながら踵を返した。


 トールは、第2段階のエクスカリバーの威力を目の当たりし、背筋がゾクッとした。

 刃に触れずに相手を斬るのは、第1段階でもできたのだが、これはスケールがまるで違う。

 ならば、爆発力も高まっているはずだ。

 彼は、後ろから聞こえてきた象の叫び声に振り返る。

 そこでは、魔法が使える騎兵達が、弓と火の付いた矢を魔法で取り出して、尻を向けた象達に放っている最中だった。

 前方は魔方陣で防御結界を張っていたらしいが、尻の方は無防備のようだ。

 雨のように降る火矢に狼狽するものが多数だが、中には反撃に出ようと方向転換するものもいる。

 爆裂魔法を試すなら、今だ。

 彼は、エクスカリバーの柄を両手でしっかり握り、剣先が狙う先を、方向転換した一匹の頭に定めた。

爆破(シュプレングンク)!!」

 彼が気合いを込めて魔法名を叫ぶと、剣先から、刀身の幅ほど太い円柱の光線が発せられた。

 それは、瞬時に象を直撃して爆発。

 たちまち、灼熱を放つ巨大な火の玉が膨れ上がる。

 その威力は凄まじく、周囲にいた四匹の象までも巻き込み、体が粉々に飛び散った。

 爆風が騎兵達を煽り、馬が右往左往する。

 何という恐ろしい力……。

 この破壊力には、仲間は当然のことながら驚嘆したが、トールの方は戦慄が走った。

 なぜなら、光線が発せられた時の衝撃で、危うく尻餅をつくほど、自分の体のバランスが崩れたのだ。

 これでは、生半可な持ち方で光線を発射すると、狙いがずれて仲間に当たる可能性がある。

 彼は、気持ちをグッと引き締め、腰を落として踏ん張り、爆裂攻撃を繰り返した。

 耳をつんざくような爆発音がこだまし、巨大な火の玉が熱風をまき散らす。

 全ての象が雪原の上で肉塊の山となるまでに、15秒も掛からなかった。


 このような攻撃を繰り返しても、新品のように光輝くエクスカリバー。

 想像を絶する威力の武器を下から上まで舐めるように見つめるトールに、ヴィヴィエンヌが急を告げる。

「トール! 前を見て! 投石機よ!」

 彼は、坂の上へ目を転じた。

 そこには、高さ5メートルほどの投石機が4台。ゴロゴロと音を立てながら、その姿を現した。


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