第340話 エクスカリバー第2段階
町を出たトール達は、雪原に無数の足跡を発見した。
それらは、北の方角へ続いている。
彼らの推理は正しかった。
二人は、馬を全速力で走らせた。
強い風がトールの顔や耳を叩く。サラサラヘアがオールバックのように後ろへなびく。
まるで嵐の中を走るよう。
恐ろしい風音が、不安感を増幅する。恐怖心を煽る。
すると、彼の心の中では、実に様々な念いが去来した。
悔恨。懸念。疑念。残念。雑念。
彼はかぶりを振った。
ネガティブな考えは払いのける。迷いは捨てる。
全て風の向こうへ吹き飛ばせ。
なぜなら、それらは何のプラスにもならないからだ。
確固たる信念を貫くのだ。
気持ちの整理が付くと、実にすがすがしい気持ちになり、身を切るような強い風が心地よい。
すると、今度は、さらなる力を欲するようになった。
エクスカリバーは、3段階に変形すると聞いた。
トールは、エクスカリバーの柄を強く握りしめる。
「この剣の力が欲しい。もっと上の段階の力が欲しい」
とその時、彼の視界に闇が広がった。
◆◆◆
トールは、深い森の中を彷徨っていた。エルフの森に似ているが、違うような気もする。
太い木の幹を触り、灌木を掻き分ける。だが、なぜそんなことをしているのかがわからない。
そうだ、思い出した。自分の名前を呼ぶ声がしたからだ。
でも、方角を見失った。だから、こうしているんだ。
「トール……」
また聞こえてきた。今度こそ声の方を目指そう。
彼がさらに灌木を掻き分けていくと、何やら光が見えてきた。
そこには、白いドレスを着た、白髪の碧眼の美少女が後光のような光を纏って立っている。
彼女の膝の辺りまで伸びる白髪が、無風でもユラユラと揺れる。
「ああ、あなたでしたか。ハルフェ・ドライシュタイン」
「そうよ。剣の力を求めたでしょう?」
「はい」
「あなたの心が強くなったから、次の段階に引き上げようかなと思って」
「ありがとうございます! 是非お願いします!」
「止めるなら、今よ」
「え? 今更……」
「英雄の爆弾の一歩手前になるのよ。魔力の消費も大きいし。体が衝撃でボロボロになるかも」
「かまいません!」
「そこまでして、何がしたいの? 自己満足なら、お断りよ」
「僕には守りたいものが、たくさんあるんです!」
「剣が強いから守れるんじゃないわよ。強い心を持っている自分が、剣を使って守るのよ」
「でも、折れる剣では、守れません。気合いだけでは、相手を斬れません」
「もちろん、そうね。ただ、何度も言うようだけと、強い心を持っていることが大切。そうしないと――」
「剣が扱えないのですよね?」
「ええ。それだけではないの。この剣に、あなたの心が飲み込まれてしまうの。その意味がわかるわよね?」
「はい!」
「本当に英雄の爆弾は、魔界どころか人間界も焦土と化す力なのよ。それだけは絶対に忘れないでね」
「はい!!」
「ほんと、まっすぐな少年ね。じゃあ、第2段階に引き上げるわよ。形が変わるからびっくりしないでね」
とその時、急に目の前に眩しい光が現れる。
両手を振る彼女も森も視界から消えていった。
◆◆◆
馬から伝わる振動で目が覚めたトールは、危うく馬から転げ落ちそうになった。
頭を上げた感じでは、うつむいたまま、一時的に気を失っていたに違いない。
左手は、エクスカリバーの柄を握っている。落としていないようだ。
そうだ! エクスカリバーはどうなった!?
彼は、急いで左手の先を見た。
「え!? 何これ!?」
刀身の長さは、半分以下の1メートル弱。ギリギリ大太刀か。
幅は、15センチメートルほど。少し広く感じる。
刀の表面に見える波形の模様の近くに、びっしりと細かな文字が刻まれている。
黄金の柄には、火を吐くドラゴンの浮き彫り。
それにしても、重い。
こんなサイズで、第1段階のエクスカリバーの5割増しだ。
「トール! あれは味方よ!」
ヴィヴィエンヌの声に、トールは新エクスカリバーから前方へ視線を移す。
見えてきた。騎兵の集団の最後尾が。
二人は、さらに馬の速力を上げた。




