表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕と幼馴染みと黒猫の異世界冒険譚  作者: s_stein
第四章 魔界騒乱編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

338/369

第338話 フックスシュタインの魔法の解除

 ヴィヴィエンヌは、恥ずかしがるトールの背中を吹き出しながら見つめていたが、やがて周囲の把握に乗り出した。

 彼女は、上半身を起こして辺りを見渡す。

 天井にある魔石が、ぼんやりと壁の大きな穴を映し出している。

 あそこから、この部屋の中へ転がったのだろう。

 床には、壊れた椅子のようなガラクタが落ちている。木箱も3つほど積まれている。

「ここは、地下の物置みたい。あそこに扉があるけど、作りが地下牢っぽくない」

 彼女は独り言のように小声でそう言うと、スッと立ち上がり、扉の方へ足音を立てずに歩いて行った。

 トールは扉の方へ振り返ると、そこにはヴィヴィエンヌの全裸の後姿があった。慌てて向き直る彼は、動悸が止まらない。


 それから、30秒ほど何も音がしなかった。

 気になった彼は、もう一度扉の方へ振り返ると、今度はこちらに向かって歩いてくる彼女と目が合った。

 彼女は、前を隠していない。また慌てて向き直る彼は、目が泳いでドギマギする。


 見ていない、見ていない!

 これは事故だ! そう。事故なんだ!

 こういうのをなんて言うんだっけ?

 ……そうだ、ラッキースケベ! だっけ??

 なんか、自分で言うのは超ハズい。。。


 頭の中がパニック寸前の彼は、後ろから両肩に手を置かれて、腰が宙に浮くほど驚いた。

 さらに彼女が、彼の右耳に口を近づけてくる。吐息が耳元をくすぐる。

 ここに、背中へ柔らかい物まで押しつけてくるから、たまったものではない。

「扉は鍵の構造が簡単で、すぐに開いたわ。この外に通路があって、少し離れたところで見張りが二人寝ているみたい。この先、戦うことを考えると、魔力が心許ないから少し分けてくれる?」

「あ、……ああ」

 上の空の返事に、彼女は苦笑した。


「そうそう。ついでにやらなければいけないことが。フックスシュタインが死んだから、彼の魔法を解いてあげる」

「彼の魔法?」


「複雑に絡み合った魔法を掛けられているみたいなの。可能な限り解いてあげるから、こっちを向いて」

 トールは、顔だけをヴィヴィエンヌの方へ向けた。

「駄目。体も」

 そう言われても羞恥心が先立ち、体がこわばる。

「仕方ないわね」

 彼女は彼の前に回り込んで、床に両膝をつけ、両手を彼の頬にソッと当てる。

「さあ、目を閉じて。しばらく我慢してね」

 優しい言葉をかける彼女の桜色の唇が、彼の顔に近づいてきた。彼は、ソッと目を閉じた。


 柔らかい感触が、唇に軽く押し当てられた。

 心臓が、ビクンとする。

 その唇が少し開いて、少し強めに押された。

 今度は、心臓が破裂しそうになる。

 次に、唇を割って、口腔の中に甘い香りの息が入ってくる。

 それが肺に達すると、今度は、体の中から何かが抜け出ていく。

 不思議と心が軽くなっていく。

 おそらく、外に出て行くのは、心を押さえつけていた何かのようだ。

 これがフックスシュタインの魔法なのか?

 一緒に鼓動が喉まで上がってきて、彼女に聞こえてやしないかとビクビクしてくる。

 心が軽くなるだけではなく、力が少し抜けていく。

 魔力を彼女に供給しているらしい。

 長い長いキス……。

 なんて甘い……。

 いつまでも、いつまでも、このままでいたい…………。


 彼女の唇が、名残惜しそうに離れていった。

「もう終わったわよ。ありがとう。魔力も充填できたし」

 もう少し余韻に浸っていたかった彼だが、その言葉にゆっくりと目を開けた。

「複雑に絡み合った魔法って、何?」

「本当に悪質な魔法よ、彼の魔法。まず、とある命令を最後まで遂行させる魔法。心の奥底に眠る無意識をさらけ出して行動に移す魔法。そして……」


「そして?」

「自害の命令を受けて自害する魔法」


「そんなにたくさん?」

「そう。自害する魔法は解除したわ。無意識をさらけ出す魔法は、半分くらい。それで、普段の自分らしくない言葉や行動が時々出てくるけど我慢してね。そして、命令遂行は、ごめんなさい、私には無理。こんな複雑な魔法は初めて」


「結構、魔法に詳しいんだ。……そういえば、前に、幼馴染みに変身して『彼女達の気持ちがわかるようにしてあげる』って言ってくれたけど、あの時も魔法で?」

「ああ、あの時はそれもあったけど、自害する魔法にかかっていることにピンときて、それを解除してあげたの。後でフックスシュタインにバレて、元に戻されたけど」


「そうなんだ。……それはそうと、さすがにこのままじゃ寒くて凍えそうだ。魔法で服を出せないかな?」

「ちょっと待って。魔力を浪費したくないから、服を奪ってくるわ」

 彼女はそう言うと、扉まで忍び足で歩いて行って、ソッと扉を押して出て行った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
cont_access.php?citi_cont_id=229234444&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ