第332話 壁を破壊する魔方陣
ヴィヴィエンヌは、幅100メートルの壁のど真ん中へ向かい、壁から5メートルほど離れた位置で立ち止まった。
そして、足を大きく広げ、サーベルを持った右手をサッと時計回りに1周させた。
剣先が描いた軌跡が、空中に金色の輪を描く。
すると、その輪が直径6メートルくらいの大きさに広がってから正三角形に変形し、その中が金色の幾何学模様で埋め尽くされた。
続いて、正三角形の頂点に、直径1メートルの丸くて金色に輝く魔方陣が3つ現れた。
正三角形と3つの円が組み合わされた魔方陣だ。
その魔方陣が強烈に光り輝いたかと思うと、トールでさえ、強い魔力をビリビリと感じた。
と突然、ピシピシピシピシと、亀裂が入るような音が壁から聞こえてきた。
同時に、彼女を中心として左右に10メートル、幅にして20メートル分の壁に無数の亀裂が入る。
壁が魔力に耐えられなくなったらしい。
次に、彼女は左手で魔方陣を強く前へ押す仕草をした。
グンと押し出された魔方陣が壁に激突すると、壁は巨大なハンマーで叩かれたかのように、衝撃音を上げた。
ひび割れた壁が粉々になって、魔方陣と一緒に奥へ吹き飛ぶ。
ガラガラと壁が崩れる音。もうもうと立ちこめる粉塵。
とその時、彼女はバク宙を5回繰り返して壁から遠ざかった。
左手が義手、右足が義足とは思えないほどの身のこなし。
彼女がいきなり後ろに逃げた理由がわかった。
粉塵の中から2メートルを優に超える背丈の巨人が四人、飛び出してきた。
彼らは、全員が一つ目の剣士。
レーザーアーマーを着用し、金属製の丸い盾と、シミターを持っている。
盾には、口を大きく開いた獅子の立体的な顔がはめ込まれている。
シミターは、優雅な曲線を描きつつ、冷たい輝きを放つ。
巨人の剣士達は、その巨体とは似ても似つかぬ俊敏さで、あっという間にヴィヴィエンヌを四方から取り囲んだ。
「ヴィヴィエンヌが奴らを引きつけている間に、突入せよ!」
フックスシュタインの号令に、騎兵が一斉に馬を走らせる。
彼らは、彼女を取り囲む巨人達の輪を遠巻きにして、次々と壁の残骸を飛び越えていった。
「トール、何している! 遅れるな!」
「……ヴィヴィエンヌ! 任せた!」
フックスシュタインに急かされたトールは、後ろ髪を引かれる思いで騎兵達の後を追った。




