第326話 見えない出入り口
ついに、トールらは水晶の山脈の麓に達した。
彼らは馬を止め、威容を誇る山々を仰ぎ見て、視線で稜線をなぞる。
100メートル以上の高さにそびえ立つ、切り立った水晶の山。それが内側から輝き、わずかに蛇行しながら、左右に広がる。
頂上に向かって緩やかに傾斜する山ではない。垂直に近い斜面。絶壁に近い。
これではまるで、輝く城壁である。
ここを越えれば、水晶の魔王の領地だが、どうやって越えればいいのか。
表面はゴツゴツしているので、よじ登れないこともないだろうが、材質から考えて滑りそう。
仮に登れたとしても、馬はどうする? まさか、背負うわけにはいかない。
水晶の魔王が大量の兵士を送り出したのだから、どこかに通路があるはずだ。
あるなら、当然、それは谷間だ。どこかに谷間が見えるはず。
騎兵達は、東と西へ二手に分かれて、あるはずの谷間を探した。
トールとフックスシュタインとヴィヴィエンヌは、東を行く。
だが、彼らは、行けども行けども壁が続くことに気づいた。
谷間どころか、裂け目もない。
巨大な隠し扉でもあるのか? それとも地中にトンネルでもあるのか?
しばらく探していると、ヴィヴィエンヌが地面を指さして声を上げた。
「この辺りの地面に、大量の足跡がある! 広い範囲で踏み固まれている! ここを通って行ったはず!」
その声に騎兵達が集まってきて、彼女が指さす先に視線を向ける。
確かに、無数の足跡が残っていて、ここを誰かが通って行ったようだ。
だが、足跡の向こうには谷間などない。他と同じような輝く壁が遮っているだけだ。
トールの指示で、イノシシ顔の騎兵が、西へ向かった全員を連れ戻しに行った。
その間、馬を下りたトールとヴィヴィエンヌは、水晶の絶壁を触るなどして調査していた。しばらくすると、何か見つけたようで、二人は笑って顔を見合わせた。
やがて全員が揃ったところで、トールが輝く壁を背に、状況を説明し始めた。
「敵がここを通って行った可能性があることは、地面にある無数の足跡からわかる。さらに、ここの左右で輝き方が違う」
彼はそう言って、水晶の壁を手のひらでバンバンと叩く。
「縦方向に伸びる裂け目がくっついたような、不自然な箇所がここ、そしてあそこの2箇所にある。どうやら、ここからあそこまでの幅20メートル分ほどが、出入り口と思われる」
フックスシュタインは、馬上でトールを見下ろしながら、鼻で笑う。
「よく気づいたな。……で、どうする? まさかと思うが、みんなでここを『せーの』で押せと言うのか?」
「俺に任せろ。さあ、全員ここから離れるんだ!」
トールは、左手を真横にグッと突き出した。
「おいおい、何をおっぱじめる?」
「硬い切っ先!」
彼はエクスカリバーを左手から取り出し、剣先をまっすぐ壁に向けた。
「ここの出入り口を塞いでいる部分を、この剣で吹き飛ばす」
「馬鹿か、貴様は。でかい音を立てたら、敵がうじゃうじゃ集まるだろうが」
「なら、ここを突破する良い考えでもあるのか?」
トールは、馬上のフックスシュタインを鋭い目で威圧した。




