第324話 幹部到来
トールは、唇を噛む。
無謀極まりない命令だ。
これだけの人数で、魔王の首を取る。
そんなの、できっこない。
彼が、次の反論の言葉を考えていると、別のドラゴンが飛んでくるのが見えた。
伝令のドラゴンだ。
全員が、撤回命令を期待していると、着地したドラゴンの背中から九尾の狐が飛び降りるのが見えた。フックスシュタインだ。
狐が尻尾を揺らしながら、トールのそばに走ってきた。
トールは、いぶかしがる。
「何しに来た?」
「城を落とすところを見届けに来た」
「高みの見物だと? 正直に、『支援に来た』、と言え」
「ハハハ、お見通しってことか。いかにも。ちょっと手伝ってやる。さあ、電撃作戦だから時間がない。行くぞ。……ん? そこの女」
フックスシュタインは、ヴィヴィエンヌの姿を認めて、鼻をクンクンさせた。
「強烈な魔法の匂いがする。……これは、ただ者ではないな。誰だ?」
トールは、心臓が跳ね上がった。
ここでバレては、彼女の立場はおろか、自分の立場も危うい。
落ち着け自分、と彼は心の中で言い聞かせて、話をでっち上げる。
「彼女は、途中の村で拾ってきた。叔父さんに剣を習っていたということで、戦力になる」
「ううむ……」
フックスシュタインが、ヴィヴィエンヌの足下までやってきて、彼女を見上げる。
そして、匂いを嗅ぎながら、彼女の周りをグルグルと回り出した。
トールは、気が気でない。とぼけるなら、彼女の過去を完全に忘れた方が良かった、と思ったほどだ。
「まあ、よかろう。役に立つかも知れぬ。一人でも多い方がいいからな。活躍を期待しよう。では、行くぞ!」
トールとヴィヴィエンヌは、互いに目を合わせ、わずかに微笑んだ。
それから数分後、トールとフックスシュタインを乗せた馬を先頭に、軽騎兵中隊の百二騎が北を目指して驀進した。
彼らの行く手には、壁のような水晶の山脈が輝く。
この時、その山の向こうで、ヴィヴィエンヌのとんでもない活躍ぶりを見ることになろうとは、軽騎兵中隊の誰もが思わなかった。もちろん、トールもフックスシュタインも。
そして、さらに全員の記憶に焼き付けられる事件が起こる。
第二段階に達したエクスカリバーが、さらに上を行く破壊的な威力を見せつけるのである。




