第321話 頭の中で語りかける大蛇
左右の集団へは、グライフスシュタインの雷攻撃が続く。
こちらは、まんべんなく攻撃ができないため、どうしても何人かは逃げおおせることができた。
「奴らを狩れ」
グライフスシュタインが、トールではなく、騎士達の方を向いて命令した。
騎士達は、我に返って、逃げる敵を追尾する。
それを見送ったグライフスシュタインは、何もできないで固まったままのトールを置き去りにして、大蛇の方へ歩いて行った。
「よう。シュラーゲンシュタイン。遅かったじゃないか?」
シュラーゲンシュタインと呼ばれた大蛇は、九つの鎌首をゆっくりと後ろに向けた。
「おお、グライフスシュタインか。どうしても、地を這ったり、土の中に潜ったりするから、貴様のように走る速さでは動けん」
閉じた口の先から、割れた舌がチロチロと出たり入ったりしているだけで、しゃべっている様子はない。
どうやら、白ファミーユの白フクロウのオーギュスト=エマニュエル・ドゥ・ガロアのように、相手の頭の中へ語りかける方式で会話をするのだろう。
トールは、初対面の大蛇を呆けた顔で見つめていた。
「ところで、そこにいるのが、人間のトールとやらか?」
彼は、大蛇に頭の中で話しかけられてハッとした。
「そうだ」
「ほほう。はじめまして、というところか。俺は、魔王ヴァルトトイフェル様の幹部の一人、シュラーゲンシュタイン。見ての通り、体がでかすぎて、謁見の間には一度も入ったことがない。だから、会ったことがないだろう?」
「ああ」
「それに、この格好で動き回ると、簡単に見つかってしまう。だから、いつも土の中にいることが多い」
ここで、グライフスシュタインが会話に割り込んできた。
「ところで、シュラーゲンシュタイン。こいつが逃がした北の軍勢を殲滅してはもらえないか? どうも、奴らはあれから集結して、態勢を立て直しているらしい。さっき、ドラゴンから聞いた」
「ああ、いいとも。で、残りはどんな感じだ? 水晶の魔王と蒼の魔王の軍勢で越境してきた奴らは、あとどれくらいだ?」
「残り千人ってとこだな。この西の先に散らばっている。俺と、こいつとで奴らを狩るから、北の軍勢を殲滅したら魔王様へ報告してくれ。『うまくいった』、とな」
グライフスシュタインは、『うまくいった』と言いながら、トールの表情を確認するように振り返った。
「まだ終わっていないのに、か? 気が早いな。まあ、いいだろう」
シュラーゲンシュタインは、再び、ズルズルと土の中へ潜っていった。
「ここの残党狩りが終わったら、西へ行くぞ」
そう言うグライフスシュタインに、トールは待ったを掛けた。
「ちょっと連れがあるので。すぐ戻る」
彼はそう言い残すと、首をかしげるグライフスシュタインを無視して、大剣を魔方陣の中へ戻した。
そして、ヴィヴィエンヌの元へ馬を飛ばした。




