第313話 伝説のエクスカリバー、再び
トールは立ち上がって周囲を見渡した。
黒煙を上げ、火炎が舐める家の手前に、奥に、一人分の隙間もなく、ずらりと獣人の兵士が並ぶ。
あれは、天空の魔王の歩兵ではない。装備がまるで違う。
奴らは、地面に転がる村人の遺体を踏みつけたり、蹴ったりしながら、包囲の輪を縮めてくる。
距離は近いところで50メートルほど。遠いところで100メートルほど。
輪は、一重ではなく、二重のところもあるようだ。
ざっと、三、四百人はいるだろう。
燃える村を誘いの餌におびき出し、救出隊の百一騎を完璧に囲んだ形だ。
後方の支援部隊は、この一大事にどこへ行った?
尻尾を巻いて逃げたのか? いったん引いて、態勢を立て直すのか?
だが、今はそんなことを考えている暇はない。
異世界最強の力を見せてやる!
彼は、左手を勢いよく真横に伸ばす。
「硬い切っ先!!!!」
絶叫に近い声で魔法名が叫ばれると、彼の左手の先に黄金色に輝く幾何学模様と古代文字の魔方陣が出現した。
魔方陣から、一筋の光とともに突き出るのは、2メートル近くある大剣、エクスカリバー。
第一段階の形態でも、見る者を圧倒する。
すると、トール達を取り囲む無数の獣人が、一斉に三歩以上後退した。
「全員、俺の後ろに、馬を連れて下がれ!!」
トールはそう叫んで、大剣を両手で持ち、早足で前進する。
彼の前にいた騎兵達が、全員後ろへ隠れた。
すると、彼は立ち止まり、大股になって大剣を右横へ振った。
そして、刀身を水平方向に構える。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
彼は、雄叫びを上げて、瞬時に大剣を左横へ円弧を描くように振った。
空中に三日月状の光る軌跡が描かれる。
同時に、大剣の剣先から、空気の揺らぎが見えるほど、もの凄い剣圧による衝撃波が発せられた。
「「「「――っ!!」」」」
衝撃波の正面にいた五十人以上の獣人は、鎧が割れ、鮮血がほとばしり、上半身が宙を浮いた。
一瞬で真っ二つになった奴らは、声も上げられない。
近くで燃える家の残骸まで、真横に切断された。
遅れて、獣人の上半身、両腕、下半身が、バラバラと崩れて地面を叩く。
彼は、大剣の向いている左方向へ走り、味方よりも前に出る。
そして、再び雄叫びを上げて、大剣を右横から左横へ円弧を描くように振った。
剣先から発せられた衝撃波が、また五十人以上の獣人の胸付近を通過し、鮮血とともに上半身を宙に浮かせる。
トールは、左回りにこれを繰り返す。
左側で惨劇を目撃した獣人達は一斉に背を向けたが、残りは、惨劇が中央の馬の集団で隠れているので、突っ立ったまま。
そこに、鬼の形相のトールが現れ、エクスカリバーの衝撃波が襲いかかる。
二重に騎兵を取り囲んでいる獣人達も、全員が輪切りにされた。
そう。エクスカリバーに一切触れていないにもかかわらず。
トールは、6回繰り返して一周した。
軽騎兵中隊は、今度は、大量の獣人の切断された体に取り囲まれた。
猛火で巻き起こる風が、バラバラになった奴らを哀れむようになでていく。
エクスカリバーの伝説の力が、トールの手によって再び蘇ったのだ。




