第305話 魔物が魔物を征服する世界
トール率いる軽騎兵中隊の活躍ぶりは、空から偵察している三匹のドラゴンによって、天空の魔王の元へ逐次もたらされた。
魔王は最初、洗脳されたトールに対して忠誠心を疑っていたが、次々と入ってくる戦果に、すっかり彼を信用した。
そして、予想以上のスピードで各地を制圧する彼らを孤立させないため、今まで温存していた兵士を、ついに動かした。
西への本格的な侵攻作戦が開始されたのだ。
まず、五千名の歩兵が進軍した。
次に、騎兵が五百名。
彼らは、整然と行動する。
そして、破竹の勢いで突き進むトール達が武装解除した地域に、次々と小隊、あるいは中隊の規模で進駐した。
魔物が魔物を征服する。
それが、獰猛な獣のように、相手を食い殺すやり方ではない。
魑魅魍魎がうごめく世界の中で、野獣のような魔物が、人間界と同じく組織立って規律正しく行動する不思議。
魔界にも高度な文明が発達し、魔物は人間と同じレベルに達したのだろうか、と疑うほどだ。
なぜ、彼らは、軍隊を組織しているのか。
なぜ、村という共同体のようなものを形成しているのか。
なぜ、作物どころか、草木もない世界に住んでいるのか?
快進撃を続けるトールには、全く解けない謎であった。
かなり奥地にまで進んでしまった軽騎兵中隊は、偵察中のドラゴンとコンタクトを取り、歩兵との距離が1キロメートル程度になるまで待つことにした。
やはり、奥地に入り込むと、後ろ盾がない限り、エクスカリバー1本では不安が残る。
ドラゴンの試算では、歩兵が接近するまで、半日以上かかるとのこと。
その間、トール達は近くの大きな村を目指し、ここに宿を求めた。
村人は三百人程度いた。
ここでも、彼の大剣を見せるだけで、降伏、武装解除、恭順まで容易に進む。
家の数は、百一名を収容するには十分だ。
村人も、宿の提供に文句一つ言わない。
周囲は、どこまでも続く、起伏の多い灰色の大地。
道らしい道もない。
勝手気ままな位置に配置された家々は、木もないのにどれも木造だ。
トールは、ヒヒに似た顔を持つ村長から、やや大きめの家へ案内された。




