第300話 トール救出作戦
アーデルハイトの声に驚いた四人は、彼女の眩しいくらい美しい顔へ、射るような視線を投じる。
強い視線を浴びた彼女は、膠着した今の状況の打開という期待を一身に受けた気がした。
なので、喉から出かかった推理が単なる思いつきだと丸めて捨てられないように、いったん飲み込んで検証する。
彼女は確信する。間違いない、賛同を得るはずだ、と。
「一見すると、何も関係ないように見えるけど、エルフの森に魔界への扉があると仮定すれば納得がいくわ。つまり、銀色の人物は、人型の魔物。天空の魔王の幹部にそんな魔物がいるなんて聞いていないから、おそらく、下っ端ね。そいつが、トールを拉致した。そして、魔王は利用する。世界最強の力を持ち、エクスカリバーを体に取り込んだ彼を。だから、少人数の兵士を同伴させるだけで良い」
アーデルハイトを見つめる四人が、静止画のように動かない。
彼女は、全否定されるのではないかと緊張し、記憶の中から反論の材料を集める。
だが、それは杞憂に終わった。
一斉に動き出した四人は、感嘆の声を上げる。
ネリーが代表して、彼らの気持ちを代弁した。
「なるほど、それで合点がいった。一騎当千のあの子を洗脳し、あの子が不意を突かれない程度の兵士を連れて行けば、最低限の兵力で、最大の戦果を得る。余った兵力で、周囲の魔王に睨みを利かせる」
ネリーは、拳で机を叩いた。
「感心している場合ではない! これは、まずいぞ! 奴は、最強の武器を手に入れたようなものだ! 下手をすると、魔界を統一しかねない! 何としてでも止めないと!」
そして、ロムの方を見る。
「え? 私? 私じゃなくて、止めるのはこちらの隊長さんよ」
ロムは、ヴィルヘルミナへ目配せする。
ヴィルヘルミナは、ロムに言葉で返す。
「だったら、魔界への入り口へ案内してくれ」
ロムは、指にお下げの毛先を堅く巻き付ける。
「救出作戦発動?」
「そうだ」
「ピンポイントであの子のいる位置を教えろと? それは簡単よ。アーデルハイトの仮説が正しければ、西へ向かうはずの中隊を追いかければいいから」
「その前に救出する」
「突入するの? 冗談でしょう? 敵は何人いると思って? 三万よ」
「それはわかっている。全員を相手にするわけじゃない。人質奪回だ」
「魔界の入り口にたどり着く前に、相手にする敵はごまんといるわよ」
「そこはどこだ? エルフの森じゃないだろ? 森だったら、銀色の魔物が消えたと言う話で、ははんと思ったはず」
「……仕方ないわね。辺境の地、ツァオバータール」
「あの魔界の渓谷か……」
「怖じ気づいたの? 勇ましい隊長さん」
「エルフの森で入り口は探せないか?」
「フフフ。ほら、やっぱり怖じ気づいた」
「頼む、この通り」
「天下の隊長さんがそこまで頭を下げると、威厳がなくなるわよ。……仕方ないわね。本気で突入するのね。ラム! 目撃情報を詳しく教えて!」
「はい。ロム姉さん」
双子の密偵は、そう言いながら、互いに顔を見合わせてはいなかった。
彼女達は、勝ち誇った顔をヴィルヘルミナへ向けていたのである。
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