第290話 新魔法の炸裂
転がりながら、トールは考える。
魔力を溜めて大技を放つか、溜めずに素速く小技を放つか。
瞬時に判断が付かず、迷っている彼の耳に、知らない魔法名が2つ飛び込んできた。
「氷の大砲!!」
イヴォンヌの声だ。
「流星群!!」
これはシャルロッテの声だ。
トールが上半身を起こして、声の方へ振り返った。
二人とも大技の構え。
イヴォンヌが突き出す両手の先に、魔方陣と氷でできた大砲が見える。
シャルロッテが突き出す両手の先に、魔方陣と無数の光の玉が見える。
イヴォンヌの大砲から、ロケットの先端のような長弾が大音響を伴って発射された。
わずかに遅れて、シャルロッテの光の玉が、まるで地上を横向きに飛ぶ無数の流星のように飛んでいった。
「氷壁!!」
すかさずキルヒアイスが魔法名を叫ぶと、5メートル四方で厚さが1メートルの氷の壁が現れる。
その氷壁に長弾が炸裂し、流星が激突する。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ……
太陽が目の前に落ちてきたかのような、強烈な爆発。
耳をつんざき、体を震わす大音響。
閃光が眼底に焼き付いたかのようで、まだ周囲が明るく、目が痛い。
この異様な明るさは、光を増幅するゴーグルのせいだ。
そんな苦痛に耐えながら、彼は目をこらして勝敗の結末を確認する。
見ると、キルヒアイスが出現させた氷壁が跡形もなく消えていた。
「畜生! やりやがったな!」
キルヒアイスが右手を挙げ、足踏みをしながら激しく悔しがる。
「これでどうだ! 氷の螺旋!!」
彼が魔法名を叫ぶと、五人の足下に白く輝く魔方陣が出現した。
そして、そこから氷の塊が螺旋状に積み重なっていき、たちまち5本の氷柱ができあがった。
だが、それらの氷柱は、ガラスが割れるような大きな音を立てて、粉々に砕け散った。
中から現れたのは、両手をいっぱいに広げ、何者をも恐れない目を敵に向ける彼女達。
マリー=ルイーゼが、右足を一歩前に、腰を低くして両手を突き出す。
「甘い! 炎のドラゴン!!」
彼女が魔法名を高らかに叫ぶと、両手の先に、彼女の身長もある橙色の魔方陣が出現した。
そこから噴出された炎が、たちまちのうちに全長4メートルのドラゴンになる。
「グオオオオオオオオオオオオオオオッ!」
その燃えるドラゴンは、羽を広げて口を大きく開き、咆哮しながらキルヒアイスへ襲いかかった。
「う、うわああああああああああっ!」
炎のドラゴンに飲み込まれたキルヒアイスは、もだえ苦しみ、崩れるように倒れた。




