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僕と幼馴染みと黒猫の異世界冒険譚  作者: s_stein
第一章 異世界転生編

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第29話 名付け親

 「「厄災!?」」

 クラウスとメビウスは、ハモった。


 だが、二人はそのように驚いてみせたものの、これから何が起こるかはおおよそ検討がついた。

 勘のいい二人は、ゾフィーの答えを待つまでもない。

 地平線付近の異変を見れば、予知が可能なのだ。


(今から一雨来る?

 馬鹿な。

 あれは、先ほどのポーレ王国から来た略奪者の比ではない。

 強大な魔力の持ち主が悪霊と化した馬に乗って空を駆けめぐり、

 獲物を狙う猛獣のごとき視線で、こちらに狙いを定めた。

 あれは、凶事が確実に起こる兆候だ)


 二人の『厄災』に対する見解は、程度の差こそあれ、暗黙のうちに一致し、互いに大きく首肯する。


 それからクラウスは、現在の状況を元に、迫り来る脅威から回避する対策を検討する。

 ところが、その最中に突然、背筋の隅々に悪寒が走った。

『しまった! 魔力を半分使ってしまったじゃないか!』

 そう。あまりに当たり前すぎてすっかり意識から欠落していたことに気づいたのだ。


 クラウスは、唐突に、メビウスの魔力はどうなっているのかを確認した。

「後どんだけ残っていますか?」

「何がだね?」


「あ、すみません。魔力が、です」

「結界の維持に半分使ったから、残りも結界の維持で精一杯ってところだな」


 まずい!

 二人ともおおよそ半分使った。

 ここにいる全員を守り切るには、魔力が不足している。


 魔力は、ある意味、鉄砲の弾や、車のガソリンのようなものだ。

 どこかで補給しない限り、有限なので、使い切った時点で終わりになるのは当たり前。

 補給といっても魔力の場合、マガジンに弾丸を込めたり、ホースを使ってタンクから注入するわけにはいかない。

 充填には、休息が必要で、それなりに時間が掛かるのだ。

 急速充填するには、ヒーラーのような特別の技術を持つ者が必要だが、今ここにはそのような要員はいない。


 そんな焦るクラウスを横目に、ゾフィーは「あの二人をここへ呼んできて」とメビウスに依頼する。

 メビウスが、「前の馬車にいる二人を?」と尋ねると、ゾフィーは当然という顔をしながら腰に手を当てる。

「私達は、あの子らの魔力の潜在能力(ポテンシャル)に惚れたのよ。当然、儀式を決行するわよ」

「わかった、わかった。念のための確認をしたまでだよ」


 メビウスが先頭の馬車から少年少女を連れ出して、ゾフィーの前まで行くように促した。

 そうして、最初は馬車のそばで黒猫と一緒に見送っていたが、途中から心配になった保護者みたいに、彼らの後ろから付いてきた。


 ゾフィーは、少し前屈みになって両手を広げ、笑顔で二人を迎えた。

「これから、私とアンジェリーナは、あなた達と『契約の儀』を行うわ。本来なら、あなた達が数々の試練をこなし、特別な秘水で身を清めてから私達を召還して契約するのだけれども、あなた達の類い希な潜在能力は、すでに召還の資格を有しているの。だから、こちらから来てあげたのよ」


 ハヤテとカリンは、口をあんぐりと開けたまま突っ立っているので、アンジェリーナが「まあ、そんなに驚くのも無理はないわね」と同情し、ゾフィーの話を自分の言葉で言い直した。

「私達、こんな姿をしているけれど、ゾフィーは大地の精霊、私は天空の精霊なの。『契約の儀』で私達と契約を交わすことで、私達の力を存分に得ることができるのだけれど、今までそのために星の数ほどの魔法使いが挑戦して、ことごとく失敗したのよ。でも、あなた達は特別。稀にだけれども、非常に優秀な人間とは私達の方から契約を申し出ることがあるのよ」


 ハヤテ達はまだ呆けているので、アンジェリーナの言い直しは、あまり成功しなかったらしい。

 仕方なく、今度はゾフィーが子供に向かって解説するように平易な言葉を選んだ。

「私達があなた達に『力』を授けます。いつでも私達を『心の中』で呼び出せば、その『力』を思う存分発揮することができます。つまり、最強の魔法使いになれるのよ」


 彼女の『最強の魔法使いになれる』という言葉に、ハヤテ達は曇天がパッと晴れたような顔つきになって、しきりにうなずいた。

 難しい話より、こういう単純な話の方が少年少女達の心に響いたようだ。

 アンジェリーナが、よしよし、とうなずき、ゾフィーの方を見た。

 ゾフィーもアンジェリーナの顔を見てうなずき返した。


 その時、クラウスが生徒のように挙手をする。

「あのー、この子らの名前をどうします? 彼らは、自分の名前を覚えていません。彼らの夢に出てきた名前は、おそらく前世の名前だと思うけど、ローテンシュタイン風じゃないので、それをそのままこちらの世界で使うのはどうかと思うので」


 ゾフィーは腕組みをして首をかしげるが、すぐにメビウスの方を向いた。

「そちらで名付け親になって」


 急に振られたメビウスは、『わしが?』と目を丸くして、自分の鼻を指さす。

 クラウスは、年長者の気まぐれで自分の所にボールを投げられると困るので、両手を使ってメビウスに『どうぞ、どうぞ』というポーズを取る。


 かくしてメビウスは、名付け親の責務を一人で負わされた。

 彼は、自分がふさわしくない理由を頭の中で列挙してみたが、どれもこじつけと非難されそうなので、無駄な抵抗は諦めざるを得なかった。

 彼は首を右に左に傾けて少し考え、ポンと手を打った。

「では、この少年は、ハンス。この少女は、ゲルトルート、でどうかね」


 往生際が悪い顔をしていた割にはメビウスからまともな案が出てきたので、ゾフィーは満面に笑みを浮かべて同意する。

 クラウスは、移り気な老人の気が変わらないうちにさっさと決まってほしいので、しきりに首肯する。


 納得しないのは、アンジェリーナだ。

「少年のは、自分の名前じゃない。少女のは、ゲオルグからとっさに思いついたでしょう?」

「な……っ」

 メビウスは、『図星である』ことを素直に顔に出して、頭をかいた。


 正直に白状されても、何も解決しない。

 非生産的な時間の浪費に、アンジェリーナは立腹した。

「駄目よ! 時間の無駄! それに、この子らにとって一生ものなんだし。ちゃんと決めてあげないと!」

 彼の苦し紛れに口から飛び出した安直な提案は、こうしてアンジェリーナの洞察力によってあっけなく却下されてしまったのである。


 ゾフィーが、頭をかくメビウスに「時間がないわよ」とせかす。

 しかし、駄目出しをしたアンジェリーナは、また老人がろくでもない名前を出す危険性があると警戒し、ゾフィーを制して自分の考えた案を出す。

「男の子は、トール。女の子は、シャルロッテ。どう?」


 今度は、提案者以外の全員が首を上下に大きく振って、賛意を示す。

 そのわざとらしさに面白くないアンジェリーナであったが、ここで賛同者の態度をいさめても結論が変わるわけではないので、渋々ながら、心のこもらない同意を認めることにした。


 ゾフィーは一同を見渡して、高らかに宣言する。

「この子らの名前も決まったので、これから『契約の儀』を執り行います」


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