第288話 エクスカリバー
ヒルデガルトが前に歩み出て、話を続ける。
「百年前、グリューネヴァルトの中をまっすぐ通る国境の目印として、剣を打ち込むことになった。
そこに現れたのが、神に遣わされた子、ハルフェ・ドライシュタイン。その子は、異世界からの転生者で、十七歳の少女。
彼女の左腕から出てきた剣が、彼女によって石版に突き刺された。
剣の名前は、硬い切っ先。
エクスカリバーの伝説に出てくる剣の一つに似ている。
もう一つの湖の乙女から与えられる剣の伝説がないから、これがエクスカリバーみたいに扱われている。こちらの世界でも、その名前で通じる。
この剣の魔力で、エルフ達は国境に近づくことができなくなった。
今まで誰も引き抜けなかったので、引く抜くとどうなるかの説が二つできた。
一つは国境の結界が消える――」
答えを待ちきれないトールは、彼女の言葉を遮る。
「もう一つは?」
「体内に入って、新たな持ち主となる」
トールは、男の方へ向き直る。
「これがハルトゥなんとか、うーん、言いにくいから、エクスカリバー。これがエクスカリバーだって知っていて、僕に引き抜かせたんだな?」
「ああ」
男は、観念したように力なく声を出した。
「結界が消えるという伝承は、嘘だった――」
「みたいだな。……畜生!」
「ところで、君は四天王の一人、キルヒアイスだろう?」
「……隠しても仕方ないか。いかにも、俺はキルヒアイスだ」
「そして、そこにいるのは、部下のツェツィーリア。さあ、こちらは六人。さらに、ごまんと増援が来るよ。多勢に無勢。二人とも、無駄な抵抗を止め、投降するんだな」
トールが、左右を交互に見て、投降を促した。
彼が言い終わると、キルヒアイスとツェツィーリアが、ほぼ同時に立ち上がった。
「ええい! こうなったら仕方ない! おい! ツェツィーリア! そいつを始末しろ! 俺は、女どもをまとめて始末する!」
ツェツィーリアは剣を握り直し、瞬時にトールへ飛びかかった。




