第282話 もぬけの殻は危険な罠
入って見ると、彼らの目の前に、地下へ降りる階段が見えた。
隠れ家は、巨木の下、つまり地下にあるらしい。
階段を降りきると、部屋がいくつもあった。
兵士が警戒しながら部屋を一つ一つ開けてみると、どこも夜逃げした後のように空っぽ。
三人の四天王が捕縛されたことが耳に入って逃走したのかもしれないし、まだどこかの隠し部屋に潜んでいるのかも知れない。
見落としがないか探し回る味方を眺めつつ、廊下に立つヴィルヘルミナ。
彼女は、顎に手を当てて、次なる作戦を考え始めた。
とその時、突入せず待機していた一人の兵士が、血相を変えて階段を駆け下りてきた。
「撤収! ここが爆発すると、黒猫が言っています!」
その言葉に、中にいた全員は、狼狽えることなく迅速に脱出を開始。
部下の脱出を確認したヴィルヘルミナが、最後に洞ろから飛び出した。
その3秒後、洞ろの中で閃光が走り、巨木が大音響を上げて爆発。
瞬時に広がった爆風は、しんがりのヴィルヘルミナを含む数名を吹き飛ばす。
木の破片が大量に宙を舞い、残響が長くこだまする。
仕掛けられていた爆弾の恐るべき破壊力に、全員が戦慄した。
地面に伏せていたトールは這いつくばり、まだ降り注ぐ破片を掻き分けるようにヴィルヘルミナへ近づく。
「大丈夫ですか!?」
「ああ、少し足をやられたらしいが、大丈夫だ。君は?」
「はい。大丈夫です」
そう答える彼は、横たわるヴィルヘルミナの長い足を見る。
ミニスカートから下の無防備な素足に、数カ所、血が滲んでいる。
彼はそのまま、彼女の足先の向こうへ視線を送った。
巨木が生えていた辺りにできた、奈落のような大穴。
もし黒猫マックスの予知がなかったら、降り注ぐ破片のように自分達も粉々の肉片になっていたのかも知れない。
彼が大いに恐怖を感じていると、ふと、穴の向こうの茂みで、二つの人影が動いた。
もしかして、キルヒアイスと手下のツェツィーリアかも知れない。
そうではなく、エルフ族の兵士だとしても、引っ捕らえて尋問すれば良い。
彼は立ち上がり、その人影に向かって走り寄った。
すると、二つの人影が、飛ぶような速さで逃げていく。
一介の兵士にしては、足が速すぎる。
あれは、間違いなく魔力の賜物。ますます、怪しい。
彼は、「待て!」と叫び、強化魔法と防御魔法を発動して、韋駄天のように走り去る人影を追った。
ヴィルヘルミナは、「早まるな!」と警告するも、あっという間に彼の後ろ姿を見失う。
「罠かも知れない! 誰でもいい! 今すぐ、援護に迎え!」
彼女の叫び声は、まだ粉塵が漂う空き地にこだました。




