第279話 槍封じ
トールは、万事を休したと思い、筋肉が硬直した。
動けなくなった獲物を前に、ゲルダは嬉々として2本の剣を大きく振りかぶる。
とその時、彼の後方で、魔法名を叫ぶ声が響いた。
「梱包!!」
この声は、ヒルデガルト。
同時に、彼は茶色い毛布のような物で長剣ごとくるまれ、後ろへ投げ飛ばされた。
ヒルデガルトの、クラウスから合格点をもらった新魔法だ。
ゲルダの2本の剣が、毛布をかすめ、獲物がいたはずの地面を突き刺した。
「野郎! 邪魔すんじゃねえ!」
彼女はもの凄い形相でヒルデガルトを睨み付け、剣を引き抜き、前傾姿勢で突進を開始。
「隔壁!!」
ヒルデガルトがまた新たな魔法名を叫ぶ。
今度は、ゲルダの目の前に4メートル四方の正方形で、厚みが30センチメートルの灰色の壁が出現した。
これもクラウス直伝の魔法だ。
瞬時に出現した硬い壁に、突進者は顔面から激突する。
目から派手に火花が出た彼女は、大きく後ろへよろめいた。
そこへ、マリー=ルイーゼが、真っ赤に燃える剣を持って加勢に入る。
ふらつくゲルダは、マリー=ルイーゼの執拗な攻撃に、防戦に徹した。
それを見たヒルデガルトは、直ぐさまトールの治療を開始。
両手を二箇所の傷口へ同時にかざすと、手のひらの先に柔らかな緑色の光が現れて、みるみるうちに傷口が塞がっていく。
彼は、痛みが少々残っていたが、すぐに起き上がった。
「ありがとう。もう大丈夫」
「まだだめ」
「いいや、マリーが危ない」
彼は、右手で長剣を握りしめると、急いで強化魔法と防御魔法を発動する。
今度こそ、準備万端。
全身を光で纏った彼は、ゲルダに向かって再度突進した。
狙いは、あの2本の槍。
剣も斧も、残り8本は見せかけの武器。
槍のみが勝敗を決する武器なのだ。
だから、それを封じる。
封じてみせる。




