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僕と幼馴染みと黒猫の異世界冒険譚  作者: s_stein
第四章 魔界騒乱編

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第277話 十本の腕を持つ女剣士

 ヴィルヘルミナ一行は、トールを加えて前進を再開する。

 現状で力の差を考えると、かなり優位な戦いのはずだが、周囲を警戒しながら慎重に歩みを進める。


 徐々に空き地が見えてきた。

 森の暗さと比べると、ここは夕暮れの空が見えていて、まだ明るい。

 この空き地は、隠れ家を作るため、伐採してできた人工的なものだろう。

 討伐隊は、腰をかがめるようにして近づく。

 全員が空き地に足を踏み入れたその時、中心の空間がユラリと水紋のように揺れた。

 彼らは、ギョッとして歩みを止める。

 その数秒後、水紋をくぐり抜けるように黒いローブを纏った二人が出てきた。

 一人は、巨体で、いかつい顔をした男。

 一人は、ローブの横幅が広い女。

 ヴァルトシュタインとゲルダである。

 いきなりの四天王登場に、さすがのヴィルヘルミナも威勢のいい声が出なかった。


「おう。こっちから来てやったぜ。貴様が第7魔法分隊隊長ヴィルヘルミナ・グッゲンハイムだな。俺より背が高いのは、気にくわぬ。そしてその横は、何度も死に損なった、いや、あの天空の魔王の側近フックスシュタインからも逃げおおせたトール・ヴォルフ・ローテンシュタイン」

 ヴァルトシュタインの威圧する声に、ヴィルヘルミナも負けじと威圧する。

「いかにも。エルフの兵士は全員尻尾を巻いて逃げたぞ。頼みの綱のフックスシュタインは、それに呆れて撤収した。話が違う、とな。今回の一件は、ジクムントが全て白状した。貴様が張本人だ、と」


「野郎! 俺を売ったな! 元はと言えば、奴がけしかけたこと。俺は、それに乗っかっただけ」

「言い訳は、牢屋の中で聞いてやる! さあ、投降しろ! 今なら罪は軽くなる!」


「やだね。ゲルダ、やれ」

「ちっ、このあたいが雑魚相手に、なんで戦わなきゃならねえのさ。人使い荒いぜ」

 ゲルダは、つばを吐いた。

 イライラが最高潮のヴァルトシュタインは、声を荒げる。

「いいから、やれ!!」

「あいよ」


 ゲルダのローブが、バッと音を立てて宙を舞った。

 現れた彼女の十本の腕には、大小の剣、斧、槍が握られている。

 彼女は不気味な笑いを見せ、1本の剣を剣先からゆっくりと舐めながら言う。

「雑魚の血を吸わせるには惜しい剣だが、そのデカ物女と、黒髪黒目の珍しい男の血なら吸わせてもいいな」


 トールは、「(シュヴェルト)!」と叫んで、自慢の長剣を取り出した。

 手の先の黄金色に輝く魔方陣からゆっくり出現する、1メートル半もある長剣。

 それを見つめるゲルダは、口角をキューッとつり上げる。

「お前、いいの持ってんじゃん。あたいに譲ってくれない?」

 トールは中段の構えになり、腹に力を入れて言い渡す。

「断る!」

「なら、やるってのかい? だったら、そっちから来なよ。男だろ」


「……」

「来いよ。お前、臆病者(ファイクリンク)か??」


 臆病者(ファイクリンク)

 その言葉が耳の中でこだまするトール。

 彼の頭に、ネリー・アンドレーエ情報相の眉をひそめる顔が浮かんだ。

 絶世の美女になったロムとラムが、指で毛先をいじりながら、小馬鹿にして笑う顔も浮かんだ。

 彼は、猛烈な怒りに震えた。


「挑発に乗るな!」

 ヴィルヘルミナは、トールを左手で制した。

 だが、彼は長剣を振り上げ、突進した後だった。


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