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僕と幼馴染みと黒猫の異世界冒険譚  作者: s_stein
第四章 魔界騒乱編

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第274話 消えたトール

 トールは兵士が呼びに来たので、いよいよ交戦か、と緊張の面持ちで立ち上がった。

 そして、黒猫マックスを抱き上げ、先導する兵士から少し離れて歩き始めた。

 彼は、兵士に聞こえないように黒猫マックスの耳元で囁く。

「ねえ、マックス」

「おい、小僧。耳がこそばゆいぞ」


「ゴメン」

「いつも思うが、それ、ニャン太郎にはならないのか」


「今更――」

「今更もヘチマもない」


「ヘチマ? 何それ? まあ、いいけど――」

「俺は良くないぞ。それより、俺を連れて行くと言うことは――」


「そうだよ。未来を見てもらうため。呼び出されたけど、これはズバリ、罠かな?」

「ズバリ言っていいか?」


「もちろん。ズバッでもグサッでも、何でも言って」

「じゃ、言うぞ。耳をかっぽじってよく聞け」


「うん」

「俺を降ろせ」


「なんで?」

「俺まで巻き沿いにするな」


「え? と言うことは――」

「そうよ。そういうことよ。さあ、小僧。どうする?」


「そりゃー、毒を食らわば皿まで」

「おいおい。それは、悪いことをする奴が、罰を覚悟でとことんやるという意味だぞ」


「じゃあ、肉を食らわば皿まで」

「あのなぁ……。小僧もついに、金髪ツインテールのシャルロッテ・貴族猫(アーデルスカッツ)のお馬鹿が伝染したか」


「それ、シャルが聞いたら、めっちゃ怒るよ。うーん。なら、虎穴に入らずんば虎子を得ず」

「今の小僧は、身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ、だな」


「??」

「知らざるを知らずと為す是知るなり」


「ニャン太郎、じゃなくって、マックスは物知りだね」

「そこは言い直さんでもよろしい。まあ、伊達に歳は取っておらぬわい。……それはそうと、罠と知りつつ、本気で飛び込むのか? あのデカ物女が許可するはずなかろうに」


「敵の懐へ一気に近づくチャンスなら、喜んで許可するんじゃない? 僕を攻撃したら、逆に敵を攻め込む口実になるし」

「小僧。自信過剰にもほどがあるぞ。殺されかけたってのに」


英雄(ヘルト)は、死にましぇーーーん」

「能天気な奴め……って、おいおい! そろそろヤバい! 降ろせ! 俺は死にたくありましぇーーーん!」


「いいじゃん」

「小僧と心中はゴメンだぞ! おい! こら!」


 トールは、暴れる黒猫マックスを抱きしめたまま、ヴィルヘルミナの左横に立った。

 彼女は、黒猫マックスの慌てぶりを見て、これは動物的勘が働いた、と思った。

 ということは、これから、よからぬことが起こる。

 それで、彼の右肩に手を掛けて忠告しようと左腕を伸ばしたが、時すでに遅し。

 トールも黒猫マックスも、煙のように消え失せた。

 九尾の狐は鼻で笑って、「引き渡し、ご苦労」と言い残し、フッと消えた。

 獣人もドラゴンも、跡を追うように見えなくなった。


「畜生!! この私が、最後の最後で、してやられた!!」


 長身のヴィルヘルミナは、地面が揺れるほど地団駄を踏んだ。

 そして、隣にいた兵士に命令する。

「支援部隊へ鳩を飛ばせ! トール・ヴォルフ・ローテンシュタインは拉致された! 作戦C(ツェー)へ移行! 支援部隊の標的(ターゲット)はエルフ族の兵士、我々はヴァルトシュタインの捕獲に向かう、と伝えろ!」


 不吉な暗雲が低く漂い、異様にざわめく黒い森。

 耳朶を打つ生暖かい風まで、せせら笑う。

 唇を噛む彼女は、舌に血の味を感じつつ、まだ視覚に残る九尾の狐どもの姿を見つめていた。


   ◆◆◆


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