第272話 捕虜への尋問
しばらくして、ヴィルヘルミナと兵士達は、腰が立たない捕虜を引きずりながら戻ってきた。
連中の腰が立たないのは、立ち上がる気力がないのが半分、抵抗が半分だった。
全員が、転移魔法で姿をくらまし逃走しないように、特殊な魔法の手錠をかけられていた。
フリードマンには心を読む能力があるので、目隠しがされている。さらに、ジクムントに魔力を供給しないよう、大きく引き離されてもいる。
そして、林の中で、捕虜への尋問が始まった。
賞金稼ぎは、完全黙秘を貫く。フリードマンもだ。
唯一口を開いたジクムントは、今回の首謀者はヴァルトシュタインであり、自分は関係ない、と言い放った。
だが、誰もが、今回の事件は四天王の共謀であると思っていたので、逃げ口上にしか聞こえていなかった。
それから、ジクムントは観念したのか、今回の人質はトールの抹殺が目的であることをあっさり認め、彼らエルフの作戦を白状した。
トールの抹殺に成功すれば、帝国内で蜂起すること。
それには天空の魔王の軍隊が支援、協力すること。
すぐそこまで軍隊が来て、待機していること。
彼の話は、ほぼ密偵の話と一致していた。
一つだけ、食い違う点がある。『すぐそこまで軍隊が来て、待機している』だ。
ロムの報告では、天空の魔王の側近が少しの手勢を連れて来ているだけのはず。それを軍隊の待機と言っている可能性がある。
ヴィルヘルミナは、鋭い目つきでジクムントを威圧する。
「なら、その軍隊の数は? 待機しているなら、知らぬはずがなかろう?」
「何も知らぬ。ヴァルトシュタインがそう言っていただけ」
「嘘を言うな! 森にエルフ以外の兵士が溢れているのだぞ! 気づかぬはずがない!」
「あの森は、1個師団くらい平気で飲み込む。隠れ蓑には持って来いよ。貴様らも、中に入ったら命はないから、覚悟せよ」
とその時、一人の兵士がヴィルヘルミナに近づいて耳元で何か囁いた。
ヴィルヘルミナは「捕虜全員を奥の車に隠せ。少女は村へ送ってやれ。援軍には作戦Bへ移行と伝えろ」と兵士達に命令した。
作戦Bとは、森の他の出入り口を封鎖する作戦だ。
ただし、そこ以外からも自由に出入りは可能なため、森全体の封鎖にはならない。
あくまで、軍隊という大人数の移動を阻止するのが目的だ。
彼女は、引きずられる捕虜の姿が見えなくなったのを確認すると、トールを含む異世界転生組六人とアーデルハイトを手招きし、小声で伝えた。
「天空の魔王の側近がこちらに向かっている。一戦を覚悟しろ」
それを聞いた全員が、緊張の面持ちで頷いた。




