第270話 金髪灼眼のトール
最後の最後まで、手口が用意周到、悪辣無比。
何という無慙無愧の極悪人。
一欠片の良心すら持たない、冷酷非道な殺し屋。
「貴様らあああああああああああああああっ!! 絶対に、絶対に、絶対に、許さない!!! うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!」
野獣のように咆哮する彼の全身は、ワナワナと震え、一層光り輝いた。
すると、あろうことか、彼の頭髪が黒髪から金髪に、黒目が燃えるような赤目になっていく。
まるで大地の精霊ゾフィーが乗り移ったような、金髪灼眼のトール。
怒りで力が暴走を始めたのか。
彼は腰を落として、両腕をグンと突き出し、照準を四人の賞金稼ぎに合わせた。
すると、両手の先に、直径2メートルを超える大きさの、黄金色に光輝く幾何学模様と古代文字の魔方陣が出現した。
その特大の魔方陣を前にして、彼は渾身の力を込めて魔法名を叫ぶ。
「烈!!!! 風!!!!」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!
鼓膜が破れるような猛烈な風の音。
大量の風が駆け抜けるのが、空気の揺らぎから見て取れる。
とてつもない烈風が魔方陣から吹き出したのだ。
気体の塊が、賞金稼ぎの一味と二人のエルフを、足下の土砂まで削って吹き飛ばす。
さらに、彼らの周囲にあった十数本の太い木々が、風の力で湾曲し、あるものは幹の真ん中から折れ、あるものは根こそぎ倒れた。
これはクラウスから教わった、免許皆伝一歩手前だった新しい魔法。
合格点が出ない原因は、烈風の衝撃で体勢が崩れてしまい、狙いが定まらないから。
だが、トールは足で地面をつかむように踏みこたえ、烈風魔法をうまく制御できた。
ここぞという時に、新魔法で百点満点を勝ち取ったのだ。
烈風の洗礼を受けた六人は、ヨロヨロしながらも何とか立ち上がろうとする。
だが、トールの十八番である雷撃魔法の直撃を受けて、一瞬で全員が倒された。地面に横たわる奴らの全身から、放電がしばらく続いていた。




