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僕と幼馴染みと黒猫の異世界冒険譚  作者: s_stein
第一章 異世界転生編

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第27話 少年少女、目覚める

 クラウスとメビウスは、馬車の扉の向こうから熱い視線を送る何者かの瞳の色に驚き、言葉を失った。


 なぜなら、それは彼らの知識にはない黒だったからだ。


 黒と言っても、実際には、漆黒のような黒ではなく、濃い焦げ茶色なのだが、こちらの世界の人々にとっては、虹彩と瞳孔の区別が付かないほどの黒色に見えたのであった。


 初めて見る色。

 本物の黒ではないにしても、そう表現せざるを得ないほどの暗い色。


 ローテンシュタイン帝国の住人はもちろん、近隣諸国でこのような黒い瞳を持っている者は皆無だ。

 誰もが、黒以外の色なのだ。


 メビウスは碧眼、クラウスは金眼。眼の青や金の濃淡はいろいろで、これらを区別し始めると、たった二色でも大変な数になる。

 こちらの世界でも、濃い青、明るい青、という具合に一応は区別しているが、細かく分類するのは、眼の色マニアしかいない。

 他には、緑系統、赤系統、紫系統、銀にも分類される灰色系統がある。

 つまり、黒系統とは無縁の色ばかりなのだ。


 彼らはその瞳の持ち主が誰なのか、瞳の周辺へ観察範囲を広げて、やっと視認した。

 それだけ、神秘的な黒色の双眸に吸い込まれる思いがして、周りが見えていなかったのだ。


 一人は、サラサラの黒髪の少年。

 もう一人は、金色の長髪の両側を髪結びで結わいた少女。

 そうだ。彼らだ。

 今まで目を覚まさなかった民族衣装の少年少女が、クラウス達の前で初めてまぶたを開いたのだ。

 さあ、なんて声をかけよう。


 一方で、車内の少年少女達は、純粋な気持ちと好奇心に満ちた眼で大人達を観察していた。


 彫りが深い顔立ち。

 色彩豊かな目。

 上に尖った耳。

 腰の辺りにちらちらと見え隠れする尻尾。


 なぜ黙っているのだろう。

 どういう人達なのだろう。

 もしかして宇宙人なのだろうか。

 声をかけても大丈夫なのかな。

 なんて声をかければいいのだろう。


 少年少女達と大人達のそれぞれの逡巡が、長い沈黙を生んだ。


 ピンと張った緊張感までが漂う沈黙を破ったのは、彼らの視線の間にヒョイと顔を割り込ませてきた一人の御者であった。

 彼は、クラウス達と少年達を交互に見ながら、口角をキュッとつり上げる。

「ああ、この坊ちゃんとお嬢ちゃん。あんたらが騒がしいから、目を覚ましたんでさぁ」


 クラウスは『騒がしいって、殺し合いだったんだぜ』という言葉をゴクリと飲み込む。

 そして、長い沈黙で話し方まで忘れていたのを、やっと思い出したという調子で喉から言葉を絞り出す。

()お目覚めかい(ジーヴァッヘンアオフ)?」


 少年はキョトンとする。

「ダレ?」

 少女は、外の様子をキョロキョロと見渡す。

「ココハ ドコ?」

 彼らが口にした言葉は、日本語だった。

 二人とも転生前の言葉をまだ覚えていたのだ。


 クラウスは、彼らが声を出せるのを聞いて少々安心したものの、その言葉が意味不明なので、首を左右に振って苦笑した。

「ねえ。それ、どこの国の言葉? 君達はローテンシュタイン語を精霊から教えてもらったんだから、僕の言葉がわかるはずだよ」


 ここでメビウスが、クラウスに一歩近づいて、左肩に手をかけながら首を左右に振って忠告した。

「クラウスくん。彼らはまだ前世の言葉と後から教わった言葉との使い分けに混乱しているのだろう。もちろん、ローテンシュタイン語はわかると思うが、ペラペラしゃべると、ついて行けないかもしれん。ゆっくり話してはどうかね?」

「ああ、そうですね。そうしますか」


 クラウスはコホンと軽く咳払いをして、先生が生徒へ外国語を教えるようにゆっくり話し始める。

「僕の、名前は、ゲオルグ・クラウス」


 少年は、少し間を置いてから、意味がわかったらしくうなずきながら言葉を返す。

「あなたはゲオルグ・クラウス」

いいねぇ(グート)。で、彼の、名前は、ハンス・メビウス」


 少年は、今度は間を置かず、メビウスの方を見て話しかける。

「あなたはハンス・メビウス」

 メビウスは目を細めて「どうぞよろしく」と優しく受け答えする。


 ここでクラウスは、大いなる期待を胸にして、少し緊張した面持ちで少年に問いかけた。

「君達の、名前は? どこから、来たの? 昔の、ことを、覚えている?」

 彼はまるで、長きに渡りベールに包まれた真実を今こそつまびらかにする大役を与えられたかのように興奮していた。


 少年は、うつむいて考え始め、質問者をじらし続ける。

 だが、残念そうな顔を上げて、その表情だけで否定の態度を取った。

「何もかもわからない。名前だけは、夢の中では、イチジョウ・ハヤテ、と呼ばれていた」


 クラウスは、この世界ではボディランゲージが豊かな人種ばかりなので、この無表情とも思える乏しさに驚いた。

 黒い目を持つ人種は、皆こうなのか、と。


 一方、少女の方は驚くべきことを口にした。

「私もわからないけれど、夢の中では、ニジョウ・カリン、と呼ばれていたの。私は、ハヤテを夢の中で知っている。そして、日本(ヤパン)という国にいたのを覚えている。その国で、『バス』という車に乗っていて事故で死んだ気がする。死んだはずなのに、なんで、こうしてここにいるのかがわからない」

 すると、その言葉で少年も思い出したらしく、少女の発言に言葉を続ける。

「そうそう。僕もどこかで『バス』という車にカリンとナナセとアオイという女の子と乗っていて事故で死ぬ夢を見た。僕も、なぜここで生きているのかがわからない」


 彼らがわざわざ『バスという車』という言い方をしたのは、訳がある。

 ローテンシュタイン語には、『バス』という言葉がないのだ。

 ただ、乗合自動車を意味する『アウトブス』の省略形が『ブス』で、勘の良いクラウスは『バス』に語幹が似ている『ブス』のことだろうと察しが付いた。


 クラウスとメビウスは、お互いに顔を見合わせた。

「メビウスさん。二人とも、同じ『ブス』に乗って事故に遭った夢を見ています。しかも、お互いを知っている」

「どちらも夢の中では死んだみたいだな」


「そして、死んだはずなのに、なぜ生きているのか、と二人とも思っています」

「明らかに転生だな」


「彼らの夢は、前世の記憶かもしれません。ということは、前世で二人は会っていたのでしょうか?」

「かもしれんな。なんたる偶然」


 とその時、クラウスとメビウスの視界に、精霊達が乗っている馬車の窓ガラスが開いていくのが飛び込んできた。

 中から、精霊ゾフィーの手招きする姿が見える。


 二人は、ゾフィーの手招きに誘われて、彼女の元へ歩み寄った。


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