表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕と幼馴染みと黒猫の異世界冒険譚  作者: s_stein
第四章 魔界騒乱編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

269/369

第269話 思い出の人形の末路

 トールは、目にもとまらぬ速さで、エンマから手のひらサイズの拳銃を奪い取った。

 彼女は、奪われた拳銃を取り返すため、まず、覆い被さる少女を両腕で払いのける。

 だが、エンマが起き上がるまでの短時間に、トールは、握力だけで拳銃をグニャリと折り曲げ、遠くへ投げ捨てた。

 これは、精霊ゾフィーから今朝与えられた、さらなる(マハト)のなせる技。

 怪力の持ち主が、眼光炯々(けいけい)として人を射る。

 これには、冷酷なスナイパーも圧倒され、たじたじとなった。

 その恐怖は、他の三人にも伝搬した。

 四人とも慌てふためき、(つまづ)きながらエルフ達の方へと逃げていく。


 トールは、倒れている少女を抱き起こし「ありがとう! 助かった!」と心の底から感謝する。そして、彼女を縛っている縄を直ぐさま解いてやった。

 ところが、彼女は、そんな彼に目もくれない。

 エルフ達の方を向いて右腕を伸ばし、口をパクパクさせて何か言おうとしているのだ。

 その意味がわからない彼は、彼女が腕を伸ばす方向を見た。

 すると、偽の人質だった一人の女が、右手で大きな熊の人形の背中をつかんで、手首を右に左に90度回転させている。

 そうやって揺すられた人形は、手足をバラバラに動かして、まるで「助けて」とでも言っているかようだ。

 少女の人形が奪われたのだろう。

 ひどいことをする女は誰だろうと、トールは目をこらす。

 面長の感じから、錬金術師のイレーンだ。


 ジクムントはニヤニヤしながら、トールの方へ語りかける。

「この熊の人形は、その子の死んだ母親の声でしゃべる魔法の人形らしい。珍しい人形だから、わしらも手に入れたいが、その子は返して欲しいみたいだから、残念だが返してやる」

 それを聞いたイレーンまでニヤニヤし、熊の人形を放り投げた。

 草むらに頭から落下した哀れな熊に、少女は走り寄る。

 そして、熊を拾い上げ、熊の顔に頬ずりをしながら胸にヒシッと抱きしめる。

 彼女は、トールの所へ足早に戻ってきた。

 熊の人形は「いい子にしていたかい」と、優しい女性の声で繰り返ししゃべっている。

 彼女は、何度も同じその声を聞いていたと思われるが、うんうんと頷く。

「よかったな。大切な人形を返してくれて――」

 そう言いかけたトールは、『イレーンが物を渡す』という行動から、あることを連想した。

 ヒュッテンの町で老婆にオレンジを渡された光景が蘇ったのだ。

 あの老婆は、今思えば、イレーンの顔形。

 そのオレンジは、後になって爆発した。

 ということは――。


 トールは、可愛い熊の人形の恐ろしい正体を見抜いた気がした。

 彼は、全身からサーッと血の気が引き、大声を上げた。


「それを今すぐ、捨てろおおおおおっ!!」


 だが、熊の目も持ち主の目も、絶叫する彼をキョトンと見上げるだけ。


「早く!!!」


 彼は熊の人形をわしづかみにして、激しく抵抗する少女の腕からもぎ取る。

 そして、大きく振りかぶって、イレーンの方へ投げ返した。

 案の定、連中は、空中の熊を見上げながら、逃げ惑う。

 ちょうどイレーンが立っていた場所に落下した熊は、大音響を上げて爆発し、土砂を10メートルも吹き上げた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
cont_access.php?citi_cont_id=229234444&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ