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僕と幼馴染みと黒猫の異世界冒険譚  作者: s_stein
第四章 魔界騒乱編

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第263話 エルフの脅迫状

 朝7時。

 ヴィルヘルミナは、トールの部屋へ駆けつけ、ドアを何度かノックするも、返事がない。

 彼女は「入るぞ」と言って勢いよくドアを開けると、正面のベッドの上で女性が二人、シーツにくるまっているのを発見した。

 当のトールはと探すと、ベッドから落ちたのか、左下の床の上で腕を組んで転がったまま寝息を立てていた。


 夜のうちに何があったのだろう?

 彼女は一瞬頭に浮かんだ『英雄色を好む』の言葉を振り払った。

 そして、詮索しない方がよかろう、と心に決めながら、彼のそばでしゃがみ込み、肩を揺すった。

 驚いて目を覚ました彼が「おはようございます!」と大声を上げて立ち上がる。

 その声に、イゾルデとイヴォンヌも飛び起きた。

 三人の顔が、みるみるうちに真っ赤になっていく。


「いいから、今すぐ付いてこい。ちょうどいい、イゾルデもだ」

 踵を返すヴィルヘルミナは、大股で部屋を出て行く。

 トールとイゾルデは、彼女の背中を追った。

 彼は、昨晩通った道の逆を行くのだろうと思い、自分の記憶力の確かさを試そうと思ったが、彼女は宿舎の階段をずんずんと上がっていく。

 そして、2階の部屋に案内されて仰天した。

 昨日の牢獄のような部屋と同じだったのだ。

 今度は、正面にネリーが陣取り、その両脇に男を悩殺するほどの美女を従えていた。

 右は青緑髪、左は赤紫髪。しかも豊かな胸まで届く長髪。

 その髪の色以外は、着ている服や唇に指を触れる仕草まで、鏡で映したようにそっくりだ。

 双子の美女の登場である。


 トールとヴィルヘルミナが昨日と同じ席に座ると、イゾルデはトールの左に座った。

 ところが、イゾルデの左の席が空いている。椅子が1つ増えているようだ。

 すると、扉を開ける音がする。

 ネリーが首を伸ばして「遅い!」と声を荒げると、アーデルハイトが「ごめんなさい!」と言いながら部屋へ飛び込んできた。

 全員の注目を浴びた彼女は、最後の席へ滑り込むように着席する。

 ネリーが全員を見渡すと、紙切れを丸テーブルの真ん中に放り投げ、「さて」と切り出した。

「エルフが人質を取って、文章で通告してきよった。第一に、エルフの森をローテンシュタイン帝国から独立させろ。第二に――」

 ネリーがイゾルデの顔に視線を向ける。

「そこにいるイゾルデ・ヴァルハルシュタットを解放せよ。第三に――」

 今度はトールへ視線を向ける。

「人質の受け取りにトール・ヴォルフ・ローテンシュタインを一人で派遣しろ。他に誰も同行させるな。今日の午後5時までに来い。さもないと――」

 彼女は周囲を見渡す。

「人質五人全員を処刑する、とな」

 トールとイゾルデは、腰が浮くほどドキッとした。


 すると、青緑髪の美女がフンと鼻を鳴らして、赤紫髪の美女へ声を掛ける。

「ねえ、ラム。どう思う?」

「ロム姉さん。こっちが独立の条件を呑むはずがないことをわかっているのに、こんな脅迫状を送ってくる神経が理解できないわ。当然、目的は、そこにいる子しかあり得ない」

 双子の声と、ロムとラムという名前から、昨日の双子の少女が化けていると気づいたトールは、二人が食い入るように自分を見ているのでドギマギした。

「え? 僕が目的!?」

「「そうよ」」

 ロムとラムは、ハモった。

 ネリーは、「そこで理解していない子に説明してやりな、グッゲンハイム隊長」と言いつつ、ヴィルヘルミナではなくトールを見て失笑した。


 鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしているトールを横目で見たヴィルヘルミナは、軽く咳払いをして口を開いた。

「エルフの森の独立は、連中の百年来の悲願だが、そのために何度も蜂起して討伐されている。帝国は譲歩するつもりは一切ないと、骨身にしみているはず。それなのに今更、五人の人質で譲歩するか?と言うこと。

 イゾルデの返還については、こちらは拘束したつもりはないので言いがかりだ。目的は、彼女の魔力を戦力として利用したいからだろう。

 それは理解できるが、人質の命と引き換えにするほどのことか?と思うと、真の目的は、消去法で第三となる」


「僕が行かないと、人質が処刑されるんですよね?」

「文章上はそうだ」


「じゃあ、助けに行かないと」

「おいおい。連中が人質を解放すると思うのか? 真の目的は、第三、つまり、君なのだよ」


「僕?」

 ヴィルヘルミナは、首を左右に振って、やはりわかっていないという顔をする。

「気づかないか?」


「わかりません」

「君をおびき出すこと」


「??」

「人質の受け取りなんか、兵隊で十分。なのに君を指名している。そこに気づいて欲しいな」


「……」

「相当鈍いな。いいかい? 連中は、この脅迫状を読めば君がきっと助けに来るはずだ、と考えた。世界最強で正義感溢れる君を、こんな小細工でおびき出そうとしているのだよ」


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